ダンスのクリエイション基地DaBY、横浜・馬車道に始動!

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

横浜の再開発地区に、ダンスに特化した新しいパフォーミング・アーツの拠点「Dance Base Yokohama」愛称DaBY(デイビー)が誕生する。コロナ禍の影響で開館延期となっていたが、5月21日、ウェブ上でオープニングの記者発表が行われた。

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唐津絵理 © Takayuki Abe

アーティスティック・ディレクターは、愛知県芸術劇場のプロデューサーとして200を越える作品を企画してきた唐津絵理。アーティストと観客をつなぐ「ダンスエバンジェリスト」として小㞍健太、アソシエイト・コレオグラファーに鈴木竜を迎える。

「DaBYは、ダンスの創作を中心に、ダンス芸術のあらゆることをサポートしていくダンスハウスです。設立にあたり、国内外のダンス関係者にヒアリングを重ね、日本の状況に合わせた新たな形を模索しました」と唐津ディレクターは語る。
「ダンスハウス」はちょっと聞き慣れない言葉だが、「劇場をハレの日の場所だとすれば、ダンスハウスはより日常的なクリエイションの場」だという。いわばダンスに特化した創作空間・小劇場で、ヨーロッパには数多くある。

場所は、馬車道駅に直結した再開発エリアで、大正〜昭和初期の建築を復元した「KITANAKA BRICK&WHITE」BRICK Northの3階。機材はすべて可動式で、公演、ワークショップ、ミーティングなど様々な目的に対応できる。使いやすさと同時に「誰にとっても心地よい空間」を目指したと唐津ディレクター。「つくる、観る、批評するなど、誰もがダンスに主体的に関われる場を目指しています。実験的な作品の創作はもちろん、日本のダンス界の課題に対する提案となるような、小さな実験をたくさん行っていきたいと考えています」。

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唐津絵理・小㞍健太 ©︎Takayuki Abe

「日本のダンス界の課題」とは? まず、観客層が限定されていることが挙げられる。コンテンポラリー・ダンスをよく見る人は、日本では決して多いとはいえない。「劇場に行く"一歩手前"のこととして、気軽にダンスハウスに来ていただきたいのです」と唐津ディレクターは語る。
DaBYでは、創作の成果発表となるトライアウト公演やワークショップ、トークイベントなど、一般市民や学生、子ども向けのプログラムを多数展開する予定だ。ダンス作品の映像資料を閲覧できるアーカイヴ・コーナーもオープンする。
また、観客層を広げるための取り組みとして、「ダンスエバンジェリスト」という職種を設けた。エバンジェリストは、直訳すれば「伝道者」。IT業界では新技術等の話題を一般にわかりやすく説明する職種を指す。DaBYではこれをダンスに取り入れ、アーティストと観客をつなぎ、ダンスの楽しみ方のヒントを伝える役割とした。ダンスエバンジェリストに就任した小㞍は、フィギュアスケート日本代表選手への表現指導、ミュージカルやCMの仕事、Dance Lab「ダンサー、言葉で語る」のキュレーターなど、これまでも「伝道師」にふさわしい活躍をしてきている。

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また、日本にはダンス教室が多く、様々なダンスを学ぶ生徒数は世界一ともいわれる一方、プロとアマの境界が曖昧で、ダンサーや振付家という職業が成立しにくい状況もある。ダンスカンパニーの運営を担う制作スタッフも慢性的に不足している。
DaBYでは、プロのアーティスト育成のため、プロフェッショナル会員の登録を行い、小㞍がメンターとなって実験的な作品の創造を行っていく。また、ダンスをめぐる環境改善を目指し、異業種を巻き込んだ様々なセミナー開催も考えているという。
「音楽や美術、演劇や映像など多様なアーティスト、経営やマーケティングの専門家、学者、批評家など、ダンスに関心のある方々を巻き込んでいくことで、ダンスの世界を拡張していきたいと考えています。多ジャンルのプロが、共に作品を創造するクリエイターとして緩やかにつながる。そんな関係性を生み出すプラットフォームとなれれば」と唐津ディレクター。

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そんな試みの一つとして、DaBYリーガルアドバイザー・弁護士の東海千尋によるセミナーや、舞台業界の法務相談窓口の開設が検討されている。バレエダンサー志望だった東海は大学時代に法律家の道を選び、現在はダンス業界の法務支援に取り組んでいる。また、登録アーティストとしてはダンサー・振付家だけでなく、音楽家の森永泰弘、田中麻里奈、プログラマーの堂園翔矢など気鋭の若手が名を連ねる。運営は、一般財団法人セガサミー文化芸術財団が担う。

「このように、ダンスをめぐる人々が垣根なく"集まれる"場を目指してオープン準備を進めてきたのですが、コロナ禍の影響で"集まれない"不条理を受け入れざるをえませんでした。しかし、この2か月間で、ダンス業界の方々の危機感と情熱により、オンライン上の場を立ち上げることができました」。

オープニング記念イベント「TRIAD DANCE DAYS」は中止となったが、そこで上演予定だった「ダンスの系譜学」は、現在もオンライン上でクリエイションが続いている。酒井はな、中村恩恵、安藤洋子らが出演し、ダンス史の継承・再構築に取り組むという意欲的なプロジェクトだ。チェルフィッチュの岡田利規が振付け、酒井が踊る『瀕死の白鳥』を解体したソロなど、どのような作品に仕上がるのか想像しただけでもワクワクする。

また、オンラインコンテンツとして、DaBY Channelが5月28日にスタート。
https://dancebase.yokohama/info/2421
6月27日には山本康介をゲストに迎えたOpen Labを予定している。
今後もインタビューやオンラインレクチャーなど、様々なコンテンツが公開される予定だ。
ダンスエバンジェリストの小㞍健太は、次のように語った。
「ダンサー・振付家には、日々身体をつくっていく場やクリエイションの場が必要です。DaBYをダンサー、振付家の活動基盤となる場所にするとともに、これまでの経験を生かし、より多くの方にダンスを知ってもらえるような機会をつくっていきたいと思っています」。

③唐津絵理・小㞍健太・鈴木竜 ©︎Takayuki-Abe.jpg

③唐津絵理・小㞍健太・鈴木竜 ©︎ Takayuki Abe

鈴木竜は「アソシエイト・コレオグラファー第一号という役職を拝命したことを、心から光栄に思います。プロとしてダンスに関われる環境が整っているとは言い難い今の日本の状況下では、重い責任の伴う肩書きで身の引き締まる思いです。様々なプロジェクトを通して、ダンスの新しい在り方を示していくような活動ができたら」と抱負を語った。

唐津ディレクターは、「コロナにより、舞台芸術関係者すべてが危機感を抱いています。公演ができなくなったとき、私たちに何ができるのか。ダンスの本質的な役割について、あらためて考える機会となりました。この機会を生かし、多くの方々を広く巻き込む形で、この場から新たな挑戦をしていきたいと思います」と語り、会見を締めくくった。

ダンスを愛する人々が集う「磁場」として、存在感を放ち始めたDaBY。今後の展開に注目したい。

Dance Base Yokohama
https://dancebase.yokohama/

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