OpenLab DaBY Round Table Talk vol.2 柿崎麻莉子× 島崎麻美 × 唐津絵理 育児と創作環境(3)
OpenLab DaBY Round Table Talk 育児と創作環境のvol.3です。
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登壇者:柿崎麻莉子、島崎麻美、唐津絵理
ファシリテーター:東海千尋、神村結花
ゲスト:鈴木竜
父親として、育児を経た変化
東海:ありがとうございます。今日は登壇者の皆さんが女性ですが、客席にDaBYアソシエイトコレオグラファーの鈴木竜さんがいらっしゃるので、男性の意見も聞いてみたいと思います。鈴木さんはお子さんが生まれていかがですか?
鈴木竜(以下鈴木):私にも今1歳4ヶ月の娘がいます。自分自身で産んでいないというのは、お三方とすごく大きな違いだと思います。僕は自分の身体を痛めていない。唐津さんの時代から今まで変化してるとはいえ、どうしても育児出産に関することが全て女性にのし掛かりがちです。特に日本で、妻が妊娠、出産して、今育児をしてる中でひしひしと感じますし、我々父親が育児に参加していくことに対して、社会自体からも男性たちからも、様々な形で「まぁパパはパパだし」という空気をものすごく感じるんですよね。ちょっとしたことなのですが、例えば、「ママバッグ」という名前になっていたり。保育園の先生たちが皆に向かって話す時に、「お子さん方とお母さん方」としか言わなかったり。社会全体で、子どもを育てていくことをもっと大事にできると思います。
特にアーティスト、ダンサーとして、僕自身は出産もしてないし、お腹も大きくなっていないから出演は(と断られる)ようなことをされていないし。お話を聞きながら、やはり感じていることが色々と違うよなと思ったりしました。
東海:クリエイションをする時に、興味を持つことやインスピレーションを受けるものが変わったりはしましたか?
鈴木:ありますね。世界の見え方がやはり変わるるので。単純に、エレベーターが遠いなど、これが麻莉子さんが言っていたベビーカー渋滞というものか、これは遅刻するなと思ったり。
柿崎:DaBYに来るまでに、ベビーカー渋滞がすごい場所があって。エレベーターが1つしかなくて、しかも狭いの。スーツケースを持った人も並ぶような場所で、いつも4回分くらい行き来を見送らなければいけなくて。
鈴木:小さなことかもしれないですが、母親への見え方も変わったし、父親に対する見え方も変わりました。自分の子どもの将来を考えた時に、自分がしてもらったことを子どもにしてあげられるか、と考えると、今まで以上に社会そのものに目を向けざるを得なくなってきます。そういう意味で、肌感覚として社会との接点が見えてくるようになったかなという気はしています。まだ1年半ですけど。
子どもを連れてくることを躊躇しなくていい場所に
東海:様々な話が出ましたが、DaBYとしてできることもあるかなと思います。唐津さんも、多様な人に開かれた場所にしていきたいという思いがあってDaBYを作られてると思いますが、今後こういうことができたらいいなということや、こういう人にも開かれていったらいいなという構想はありますか?
唐津:そうですね、コロナ禍でスタートしたため、身体の弱い人たち、特に小さな子達を集めることが今まで難しくて。様々な方々に来てほしいし、子どもを連れてくることを躊躇しなくて良い場所にしたいなと思います。
ただ一方で、どうしてもそれが嫌だという人も、その中には混ざってしまうんですよね。だから、そのような時の選択がすごく難しい。例えば、犬を連れて入れるカフェって、犬が嫌いな人やアレルギーがある人たちにとっては、それって逆に排除になってしまう。皆子どもが好きなわけではないし、それはそれで1つの選択なので、それを押し付ける必要はない。その中でいろいろな人に開かれていたいという気持ちはあるけれども、皆が気持ちよくなるためには、どのような選択をしていくべきなのかは、いろいろな人が関われば関わるほど難しくなっていくのではないかなと感じたりもしています。いろいろな意見があって、育児の問題だけではないと思うんです。
環境として、制度として、ダンサー達が参加しやすくなるにはどうしたらよいかを考えるということもありますし、子どもがいてなかなか劇場に足を運べない方々も、例えばDaBYだったら日常と地続きで来れると思うんです。劇場はやはりハードルがあって。チケットを買って静かにしてね、と子どもを連れていかなくてはいけない。スペシャルなイベントではなくて、日常からバーと入ってきて駆け回ってもいいよという空間でダンスの楽しさを伝えられるような、ダンスと社会を繋げる活動ができるといいなという気持ちを強く持っています。
柿崎:20時を過ぎたので、もう子どもを連れて帰ろうと思っているのですが、まず私は、DaBYがあって本当に感謝していて。出産してから6ヶ月間くらい踊っていなかったのですが、バーレッスンをしたんですよ。クリエイションでもなく、レッスンを受けられたんです。なぜかと言うと、DaBYのスタッフさんが娘を抱っこしてくれていたから。これに凄く感動しました。
どういう話をして、こうやって子どもを受け入れてくれる環境がDaBYにできたんだろうと思って、過去のメールを見てみたんですよ。そしたら何も話し合ってなくて。こういう場合はこうしてほしいとか、そういう要求を1つも伝えていなくて。その都度小さい調整をDaBYがやってくれて、色々なことができたんです。例えば、クリエイションに参加することもできたし、作品を作ることもできたし、東京以外のツアーに行くこともできた。ツアーでも、シングル・ベッドだと子どもと一緒に寝るには落ちてしまうので和室でお願いしますというような。それが難しかったときにはベビーガードを買ってくれたんです。本番中はスタッフさんも人数が少ないから、ここの施設に預けませんかと提案してくれたり。本番前のリハーサルの時は、「私たちスタッフが見てますね」と言ってくれたり。私も親になったばかりで、何を頼めばいいか分からない時に、一緒に調整してくれたのがこの場所だったんですね。それは唐津さんが苦労したことを生かしてくれてるから、本当に私は助かったなと思っています。
もう1つありがたいなと思っているのは、この場所で経験したことを、劇場などの大きな現場で要求できるようになったこと。オファーを貰った時に、「私は育児中なので、これとこれはできません。でも、こういう条件ならできます。」と伝えることができて。例えば、リハーサル時間は11時から18時を基本としている劇場が多いけれど、30分繰り上げてくださいと、初めの段階で要求できたり。後は、公演中に子ども預けられる場所にも、出演者に子どもがいるので、開演前に保育施設で子どもを預けられるか検討してみてくださいなど。何が必要かが分かって、細かいことを要求できるようになったんです。今日は、いろいろなメールを見返していて、ありがたいなと改めて思いました。という訳で、失礼します(笑)。
東海:柿崎さん、ありがとうございました。では、皆さんからもご質問いただければと思います。
Q&A
質問者1:皆さんのお話にもあったように、子どもとお母さん向けプログラムは耳にするのですが、お父さんを含めたダンスのプログラムの企画はこれからもありますか?
唐津:先程お話した「赤ちゃんと踊ろう」という企画は、パパ編とママ編があって、パパだけ、ママだけ、誰でもいい、というものを作っています。最初はママだけ、パパだけ、だったのですが、ママとパパが一緒に来るケースが出てきたりして、5、6年かけて、小さなカスタマイズをしています。ただ、パパの申込が少ないです。少ないとどうしてもそのプログラムはなくなってしまうんですよね。半年から2歳までと限定されているから、その年齢の赤ちゃんがいる人がすごく限られていて。最初は愛知県の中でも、「お父さん募集」と、とにかくゼロにならないよう、プログラムを続けていけるように、呼びかけをしていました。少しずつ増えてきて、今は割とパパも集まるようになっています。そういったプログラムをDaBYでも考えていければなと思います。
島崎:イタリー・ヤトフ(Itay Yatuv)というコンタクト・インプロビゼーションでも有名な人が、コンタクト・キッズというコンタクト・インプロビゼーションのメソッドを作って広がっています。ダンス・スタジオや体育館で実施していて、ママとかパパ隔たりなく、子ども達と親でやるクラスです。
質問者2:特に島崎さんへの質問なのですが、先程お子さんが創作活動にどのように影響を与えたかというお話がありましたが、アーティストという生き方をしてきて、それが育児の理念や方向性に影響を与えたことはありますか?
島崎:そうですね。意識をしないで影響を与えていたと思うんですよね。教育に携わっていてもダンスを教えていたし、アートと完全に離れたわけではなかったので。ラッキーだったのは、ダンスの世界も、デモクラティック・スクールの世界もリベラルで、そんなにかけ離れた世界ではなかったんです。教育なのでもっと現実的な世界であることは感じていたのですが、ダンスを子どもも理解してくれていたので、アーティストとして困ることはなかったです。
唐津:出産をされたアーティストを見ているという立場での話ですが、例えば、柿崎さんの子育てを見ていると、子どもがやることを受け入れる許容量、包容力があるなと感じます。どうしても子育てのルールや慣習、皆がこうしてるということに縛られる。初めてで分からないことが多いので、皆がしている1つのやり方にこだわりがちだと思うんです。でも育児って、割と流行があるんです。例えば、変な話ですが、母乳を与えるのは3ヶ月までと言われていた時代もありましたが、今はいつまであげても良いみたいなルールがいろいろとあるんです。そのルールに縛られがちですが、アーティストは自分の感覚を信じるというか。特にダンサーは身体的だと思いますが、決められた論理的な何かということよりも、自分がオッケーだったらオッケーみたいな柔軟なところや、包容力があるように感じています。
島崎:なんとなく分かります。直感みたいなものがあるし、特に私はデモクラティック・スクールっていう個々を尊重するシステムの教育の場面にいたので、ルールみたいなものには影響されなかったですね。
唐津:他に何かありますか?
鈴木:それこそ周りの男性のダンサーや振付家でも、子どもが最近生まれた話も聞く年齢にちょうど差し掛かっていますが、彼らとそういう話をすることもあまりないなと思って。彼らがどういう風に育児に関わっているのか、意外なくらいにパパ同士で話をしないなと思って。保育園でのいわゆるパパ友みたいな関係性も独特でお互いに喋らないんですよね。こういうトークのパパ会とかあったら面白いかもしれないですね。
唐津:鈴木さんはお子さんが生まれる前から、どうやったらいいんだろうとか、どういう風にできるんだろうと話していましたよね。男性でも女性でも、生まれた時に愛情を持てない人だっていると思うし、子どもが欲しくないという方もいるため、色々だと思うんですよね。ただ、子どもがいる状況で、どうやって生活を営んでいくのか、興味がなくてもやってもらわなきゃいけない時っていうのもあるので本当に難しい問題です。
東海:では、ここで終了したいと思います。皆様、本日はありがとうございました。