『ダンステレポーテーション』活動レポート#10
望月寛斗インタビュー
(聞き手:山﨑広太)
山﨑広太さんの「対話」をコンセプトとした新プロジェクト『ダンステレポーテーション』が進行中です。
山﨑さんと11名のパフォーマーが、新型コロナウイルス流行下での創作活動を、文字通り手探りで行っています。
「基本的に、振付家とダンサーは、場と時間を共有することで作品制作を行っていきます。それが不可能となった現在、振付家は、どのようにしてダンサーとの関係を築き作品を制作することができるのでしょうか。場所も時間も超えたダンスの在り方を探るという意味で、この挑戦にたいして『ダンステレポーテーション』と名付けました。」
(山﨑広太『ダンステレポーテーション』ステートメントより抜粋)
クリエイションのプロセスは、山﨑さんがビデオ通話で各パフォーマーにインタビューを行うことから始まります。次に、山﨑さんがインタビューからインスピレーションを得て紡いだ言葉をパフォーマーに送ります。そして、パフォーマーはその言葉を起点に創作することで山﨑さんに回答します。
今回は望月寛斗さんへのインタビューの様子をお届けします。
クラシックバレエからコンテンポラリーダンスへ活動の場を移した理由や、コロナ禍での生活など、誠実に話される姿が印象的でした。
(テキスト・編集:吉田拓)
3歳からバレエを始める。2011年から田中洋子に師事。17年昭和音楽大学短期大学部音楽科バレエコース卒業。同年、谷桃子バレエ団に入団。19年Co.山田うんに所属する。
バレエ公演含め、小㞍健太・高原伸子・辻本知彦・武本賀寿子・柳本雅寬・二見一幸らの作品に出演する他、アウトリーチ等様々な所で活動している。
笠井叡に師事。07年にニューヨーク・パフォーマンス・アワード(ベッシー賞)、13年現代芸術財団アワード、16年ニューヨーク芸術財団フェロー、18年グッゲンハイム・フェローの各賞を受賞。20年ニュージーランドのFootnote New Zealand Danceの新作「霧、神経、未来、オーシャン、ハロー(木霊する)」でオンライン・クリエイションに挑んだ後、NZ国内で初演、日本で映像配信を行う(共催: DaBY)。また、北米ツアーを予定。 ボディ・アーツ・ラボラトリー主宰。http://bodyartslabo.com
ベニントン大学専任講師。
- 山﨑
- 望月さんはどのようにダンスを始められたのですか?
- 望月
- 僕が3歳の時に、親戚のおばさんが地元でバレエ教室を開いたので、そちらに通うことになったのがきっかけです。その後中学2年生で別の教室に通い始めて、より本格的に踊るようになりました。高校卒業後は昭和音楽大学短期大学のバレエコースで学び、谷桃子バレエ団に入りました。3年間所属し、現在はフリーとして活動しています。
コンテンポラリーダンスには大学の授業で小㞍健太さん、高原伸子さんとお会いして、より深く関わるようになりました。 - 山﨑
- クラシックバレエからコンテンポラリーダンスに、活動の場を移されたのはどうしてですか?
- 望月
- 僕自身として存在し、表現したいという思いがあったのだと思います。クラシックバレエでは役柄を演じる人員として必要とされることが多いのですが、コンテンポラリーダンスではダンサー自身を必要としてもらえると感じています。
また、コンテンポラリーダンスはダンサーや振付家の考えがそれぞれ異なる点や、枠に囚われずにその時々の状況や場合、考えによってどのような表現でも選ぶことができるのが面白いと思っています。 - 山﨑
- 振付に対する興味はありますか?
- 望月
- あります。
- 山﨑
- それでは、振付をする時に、一番大切にしていることは何ですか?
- 望月
- 相手を尊重する振付、踊り手がその人である理由が存在する振付をしたいと思っています。
- 山﨑
- 僕もどちらかというとそういったタイプですね。でも、そこを大切にし過ぎると作品にならなくなってしまう傾向があるので(苦笑)、その辺りを注意していただければと思います。
作品を創っていきたいとは思っていますか? - 望月
- そのように思っています。
- 山﨑
- 僕の場合は20代の頃、作品を創る気持ちは全くなく、ダンスを続けていければ良いという程度の気持ちでした。しかし30歳を過ぎた頃に、せっかくダンスで生きているのだから作品を創りたいという気持ちが出てきたんですよね。望月さんにはこれから作品をどんどん創って、観客を驚かせて欲しいと思います。そういう機会が得られると良いですね。
- 望月
- はい。神奈川県に住んでいますし、Dance Base Yokohamaの活動にも関わっていけたらと思っています。
- 山﨑
- 是非そうされると良いと思います。
好きなダンサーや振付家はいますか? - 望月
- 柳本雅寛さんの振付は踊っていて楽しいです。動いていると辻褄が合う感覚があり、ダンサーとして納得させられますし、ああいった動きも習得したいと考えています。
また以前、新国立劇場で、平山素子さんの『Hybrid -Rhythm & Dance』という作品を拝見したのですが、ダンサーとして参加したい、踊りながら同じ時間を過ごしてみたいと強く感じました。 - 山﨑
- 新型コロナウイルスが流行したことによる、気持ちの変化などはありますか?
- 望月
- 僕はステージに立って、観客に向かって踊ることを基本に生活してきたので、急にそれができなくなってしまい、なぜ踊っているのかが分からなくなるというか。踊ることで生きていたところがあるので、生きるということについて考え込んでしまうこともありました。本当はステージに立つことが目的なのに、と。でも、こういった状況なので、意固地になっても仕方がないと思いつつ過ごしています。
今の生活としては1日おきにトレーニングやバーレッスンをしていて、踊らない日は家族と過ごしたり、作業することに充てています。ただ、踊ることを忘れない、現状維持にしかなっていないという自覚はあるので、このプロジェクトに参加して、クリエイションする時間が持てて良かったです。
他には家族以外と1日1回は連絡を取って話すようにしています。
やはりスタジオの鏡の前で踊る時間や、誰かと肌と肌が触れ合うような距離で踊る時間が恋しいですね。 - 山﨑
- 今後の状況の変化について、想像していることはありますか?
- 望月
- 今回の出来事によって僕だけでなく、誰もが変化しているでしょうから、コミュニケーションの上でも変化を感じることになると思います。
表現活動においては、踊ったり、作品を創る場合に、新型コロナウイルスの流行という出来事との向き合い方が問われると思います。 - 山﨑
- 今後の活動についてはどのような状況ですか?
- 望月
- 自宅から自転車で行ける距離にある稽古場で、週に1回リハーサルが続いているものはありますが、本番ができるかどうかは劇場の対応次第ですね。11月には所属している「Co.山田うん」の公演が予定されています。
- 山﨑
- 『ダンステレポーテーション』では、リハーサルなどでの皆さんの印象や、このインタビューからインスピレーションを受けて、僕が言葉を綴ってお渡しするのですが、皆さんの背景を知っていると書きやすいんです。そこで幾つか伺いたいのですが、まず好きな場所を教えていただけますか?
- 望月
- 横浜の大桟橋です。小学校の遠足で行ったのですが、中高生の時や大人になってからも度々行っています。どの時間帯の景色も好きで、季節によっても、近くでイベントをしていたり、風の感じが異なっていたりと変化が楽しめます。
- 山﨑
- 好きな本はありますか?
- 望月
- 『無人島に生きる十六人』(須川邦彦/著, 新潮文庫)という本を、小学生の時から時々思い出しては読み返しています。最近はフィリップ・K・ディックのSF小説が気になっています。
- 山﨑
- どのような音楽が好きですか?質問ばかりですみません(笑)。
- 望月
- いえいえ(笑)。
インストゥルメンタルをよく聴いています。特定のジャンルやアーティストの音楽を聴いているというよりは、ラジオで気になった曲を調べて、ある期間、集中的に聴くような感じです。 - 山﨑
- 「自然」について、どのような印象がありますか?
- 望月
- 自然は好きです。小学生の頃は毎週末家族でキャンプに行っていましたし、焚き火などで、火を眺めるのも好きですね。
- 山﨑
- 不躾にこんなことを聞くのは申し訳ないのですが、生きていく上で大切にしていることはありますか?
- 望月
- 大学1年生の時、高原伸子さんの公演のお手伝いをしていた際に、観に来られた辻本知彦さんに「男性のバレエダンサーを探しているのだけど」と誘っていただき、コンテンポラリーダンスの世界をさらに知ることができました。
その出会いがなければクラシックバレエを続けていたと思いますし、こうして山﨑さんとお話ししているのもその瞬間があってこそなので、人との出会いは大切だと思っています。 - 山﨑
- そうですか。僕の場合は日々、いかに永遠を感じる瞬間を多く作れるかということを意識しています。
それでは、他の方へのインタビューでもやっている実験をさせてください。目を閉じて、肘を触っていただき、その後目を開いた瞬間に思い浮かんだことを教えて下さい。 - 望月
- 「硬い水面」と「揺れている土」ですね。
- 山﨑
- 良いですね。僕は画面越しに見ていて、水が滴っている感じを受けました。
それでは、インタビューは以上としましょう。言葉を綴ってお送りしますので、少しお待ちください。本日はありがとうございました。 - 望月
- お待ちしています。ありがとうございました。
インタビューはいかがでしたか?
次回のレポートは、横山千穂さんへのインタビューを予定しています。
引き続き、ダンサー同士の対話をお楽しみください。
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