『ダンステレポーテーション』活動レポート#11
横山千穂インタビュー
(聞き手:山﨑広太)
山﨑広太さんの「対話」をコンセプトとした新プロジェクト『ダンステレポーテーション』が進行中です。
山﨑さんと11名のパフォーマーが、新型コロナウイルス流行下での創作活動を、文字通り手探りで行っています。
「基本的に、振付家とダンサーは、場と時間を共有することで作品制作を行っていきます。それが不可能となった現在、振付家は、どのようにしてダンサーとの関係を築き作品を制作することができるのでしょうか。場所も時間も超えたダンスの在り方を探るという意味で、この挑戦にたいして『ダンステレポーテーション』と名付けました。」
(山﨑広太『ダンステレポーテーション』ステートメントより抜粋)
クリエイションのプロセスは、山﨑さんがビデオ通話で各パフォーマーにインタビューを行うことから始まります。次に、山﨑さんがインタビューからインスピレーションを得て紡いだ言葉をパフォーマーに送ります。そして、パフォーマーはその言葉を起点に創作することで山﨑さんに回答します。
今回は横山千穂さんへのインタビューの様子をお届けします。
アルゼンチンのショーへの出演や、積極的に新しい考えを吸収する姿勢など、画面越しに好奇心と行動力が伝わってきました。
(テキスト・編集:吉田拓)
石川県出身。幼少期より音楽、演劇等に触れて育ち、10歳でモダンバレエを中村祐子に師事。お茶の水女子大学舞踊科入学を機に上京。川崎悦子他多数の振付師に出逢い、踊りの幅を広げる。24歳で渡米し、約2年活動後、アルゼンチン発祥のパフォーマンス集団、FUERZABRUTA に加わり活動。国内外様々なフィールドで活動中。
笠井叡に師事。07年にニューヨーク・パフォーマンス・アワード(ベッシー賞)、13年現代芸術財団アワード、16年ニューヨーク芸術財団フェロー、18年グッゲンハイム・フェローの各賞を受賞。20年ニュージーランドのFootnote New Zealand Danceの新作「霧、神経、未来、オーシャン、ハロー(木霊する)」でオンライン・クリエイションに挑んだ後、NZ国内で初演、日本で映像配信を行う(共催: DaBY)。また、北米ツアーを予定。 ボディ・アーツ・ラボラトリー主宰。http://bodyartslabo.com
ベニントン大学専任講師。
- 山﨑
- リハーサルで見せていただいたアルゼンチンのダンスが印象に残っていますが、どのような作品に参加されていたのですか?
- 横山
- ブエノスアイレスで生まれた『FUERZABRUTA(フエルサブルータ)』(※1)というショーに参加していました。2017年8月から10ヶ月間のロングランをした日本公演、そして昨年韓国で4ヶ月間行ったインターナショナルツアーに出演しました。もともと私はニューヨークでショーを見ていたのですが、その時はまさか出演するとは思いませんでした。
私が普段やっているコンテンポラリーダンスとは価値観や環境が異なる作品だったので、勉強になりました。また南米の方達と共演し、長い時間を過ごすなかで、本番以外でも歌って踊るといった彼らの元気なマインドセットを学んだように思います。
(※1)『FUERZABRUTA(フエルサブルータ)』…体験型エンターテイメントショーおよび制作カンパニーの名称。2003年にブエノスアイレスで設立された。水や風をも用いるスケールの大きな舞台空間の360度全てを使って、アクロバティックなパフォーマンスが繰り広げられる。2017年には日本にインスパイアされた作品『FUERZA BRUTA WA!』のロングラン公演が品川で行われた。 - 山﨑
- もともとワールドダンスに興味があったのですか?
- 横山
- 『FUERZABRUTA』に参加したことが興味を持つきっかけになりました。
- 山﨑
- そうですか。僕もワールドダンスをもっと知る必要があると思っていますし、本来的な意味でのフォークダンスってどういうものだろう?と考えたりしています。
ニューヨークにはいつ頃行かれたんですか? - 横山
- 2014年から2016年です。その時知り合った人が、日本で『FUERZABRUTA』のオーディションがあることを教えてくれました。
- 山﨑
- どうしてニューヨークを選んだのですか?
- 横山
- 長期で滞在する前に2週間だけ行ったのですが、感覚的にここに戻ってきたいと思ったんです。小学生の頃から英語が好きだったというのもありますが。
ニューヨークでは、ブレイキンやハウスといったストリートダンスのレッスンを受けたり、プロジェクトに参加したりしていました。 - 山﨑
- ストリートダンスのどのような点に魅力を感じたのですか?
- 横山
- 子どもの頃にテレビで安室奈美恵さんの映像を見たりしてダンスに興味を持ったので、もともと憧れがありました。地元にはそういうダンスができる場所はなかったので、バレエスタジオに通っていましたが、華やかなショーも好きだったことを思い出して。踊ったことがなかったので苦手な部分もありましたけど、ニューヨークでは誰も私のことを知らないのでリラックスして踊っていました。
- 山﨑
- 新型コロナウイルスの流行という状況で、お仕事に影響はありましたか?
- 横山
- 大きなところだとオリンピック関連のものが、当初は延期だったのですが結局流れてしまいました。
また、現在はオンラインレッスンをされている方が多いですが、私はあまり積極的になれていません。今はこの先どうしようかと考えており、舞台通訳を目指すことも視野に入れて、英語の勉強をしたりしています。ダンサーでなく、人間としての自分に一旦戻って、という感覚で日々を過ごしていて。とはいえ最近はダンサーの体に戻すためのトレーニングもしています。 - 山﨑
- このような状況で感じていることを教えてください。
- 横山
- 思うところは色々あります。ここ数年、人類が発展と共に生活を続けていて、地球がこのままだと持たないとは感じていました。地球が人類に考えさせるために、今回のようなことが起こったという風に受け止めています。
- 山﨑
- すごい!よく分かっていますね!
- 横山
- 最近オンラインで色々な人の演説を聞いたりするのですが、アメリカの小学生の女の子が、「大人が偉い時代はもう終わりました。これからは大人が子どもの感覚や意見に耳を傾けていくべきです。」と話していて、その考え方は面白い、その通りだなと思いました。
- 山﨑
- 大人はそれぞれの分野で分かれていますが、子どもは全部受け入れますよね。そのように境界を取り除くことが僕にとっても必要だと感じています。いろいろと勉強しないといけませんね。
- 横山
- そうですね。今は物事をよく考えられる時間だと感じています。
- 山﨑
- 僕は今回、皆さんに送るために、訳の分からない言葉を紡いでいて、これって子どもがやっているようなことなのかなと思うことがあります。つまり、文章的に成り立ってなくても、それはそれでいいんじゃないかという感じです。読んでいただいて、どのように解釈していただいても構いません。
- 横山
- 自粛が求められる状況で、自分と過ごす時間があまりにも長いと、自分のことが分からなくなってくる部分もあります。客観的に私を見ていただいて、どういうことを感じられるのかに興味があります。
- 山﨑
- 僕はニューヨークでは、どちらかというとダウンタウン系のコミュニティに所属して実験的な公演をしていたのですが、横山さんは振付家として、どういった活動をされていますか?
- 横山
- レッスンを受け持っている都内のスタジオで、定期的にパフォーマンスや作品を発表しています。また、地元の金沢では、現代舞踊の先生方が立ち上げたコンペティションが行われているので1年に1回は、やらない年もありましたけど、自作のソロを発表していました。
今後は舞台公演に限らず、例えばショーウインドウみたいなところでダンサーが踊るなど、新しい形を試していけるかもしれませんね。 - 山﨑
- 人が集まることができない分、違った方法を試していけますね。僕もパブリックに対して活動してきたので、このプロジェクトもパブリックに対してディレクションできたらとは考えています。
- 横山
- こういった状況になったことを逆手にとって、新しいアプローチを試すことができるのは面白いですよね。
- 山﨑
- 皆さんから言葉を頂くために、このインタビューで毎回している実験なのですが、顎を1本の指で触っていただいて、離した時に瞬間的に思い浮かんだイメージを教えてください。僕も触っているところを見て言葉を探します。
- 横山
- 面白いですね(と、顎に指で触れる)。
- 山﨑
- (その光景を見てペンを走らせる。)僕は「向日葵」や「道」、「屋根に太陽が反射していて、空気が澄んでおり、何かを思い出そうとしている」、「ゆったり柔らかい」というようなイメージが浮かびました。
横山さんはいかがですか? - 横山
- 最初に思い浮かんだのは「穴が開いている」、「筒」、「トンネル」というようなイメージです。他には「薄い緑色」「葉っぱ」といったところです。
- 山﨑
- ありがとうございます。
こんなことをお聞きして申し訳ないのですが、生きていくうえで大切にしていることを教えていただけますか?答えられたらで結構です。 - 横山
- ここ数年、自分の中で確信みたいなものが持てなくて、そのことが気持ち悪かったんです。ただ、今は「私はそれを探し続ける人間」なんだと思っています。自分の核になるものを時々見つけて、やってみるけど、どこか違うなと感じたりする。不安定な時もあるし、のめり込む時もあるし、もういいやとなる時もありますが、そういうものを探していく人なのかなと、自分では思っています。
- 山﨑
- わかりました。今日はお話する中で、しっかりと物事を見据えられているという印象を受けました。ありがとうございました。言葉を綴ってお送りしますので、お待ちください。
- 横山
- こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました。
インタビューはいかがでしたか?
次回のレポートは、栗朱音さんへのインタビューを予定しています。
引き続き、ダンサー同士の対話をお楽しみください。
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