talk Dance Vol.4『Study for Self/portrait 2020』(小㞍)
photo by momoko japan
NDTを退団してフリーランスという荒波へ出航してちょうど10年。なにかを達成したようで、なにも達成していない気もするが、さまざまな人と出会ってきたことでダンサーとして活動が広がり、ダンスへのアプローチとその概念はそれらの経験を通して知らぬ間に身体に構築されているのではないか。
素晴らしい出会いはいつも人生に起こる。今回のパフォーマンスの実現もオランダ大使館のバス・ヴァルクスさん (報道・文化担当)との出会いがなければ実現しなかった。また場所との出会いもそうである。音楽を聴くと思い出す記憶があるように、空間にも記憶と交わるマジックがある。今まで忘れていた思い出が鮮明に浮かび上がったりする。その瞬間に生まれるムーブメントのように現れては消えていく。でも確かな感覚として実感する。
ダンスとはダンスを見せる行為にあるのではなく、身体の実感を伝えることなのかもしれない。蓄積された身体の経験を呼び起こしていく姿を見ていると、自ずと自身の記憶や体験と結びつき、想像が広がる。
感覚という曖昧な記憶、論理という学術的な構築、体験の蓄積、妄想と現実が交わる想像…上げていくときりがないが、ダンスにおける気付きや発見を身体が記憶している状態を保つためにはクリエーション、リサーチ、トレーニングなど地道なプロセスとパフォーマンスの実践を継続することが必要不可欠だ。そうすることでさらに新しい状態が作られる。まるで水の流れのように止むことがない。
Study for Self/portrait
この作品は自身が立つダンス環境と向き合き合い、対話をもとに身体を記憶するという行為をミニマムな形式でパフォーマンス化している。画家が生涯にいくつもの自画像を描き残すように、ダンサーは身体でポートレイトを描いている。自身の記憶と対話をテーマに、場所や建物が持つ空気感に大いに影響されたオランダ大使公邸でのパフォーマンスでは、オランダ在住当時は感じることができなかった日本とオランダの共存を感じ、自然とさまざまな記憶が蘇ってきた。異なる記憶の断片ではあったが、その瞬間に描かれたポートレイトは、今は鮮明に記憶されている。しかし、無情にも儚いダンスの残像は時間とともに静かに忘れられていくだろう。忘れないためには続けるしかない。
photo by momoko japan
『Study for Self/portrait 2020』
初演:2020年9月13日 駐日オランダ王国大使公邸
出演・構成:小㞍健太
サウンド:森永泰弘
使用楽曲:J.S.バッハ – Goldberg Variations BWV 988 Aria
衣装協力:matohu (堀畑裕之、関口真希子)
主催:Dance Base Yokohama、小㞍健太
協力・助成:オランダ王国大使館
オランダ王国大使公邸に入ると日本でありながらオランダにいるような錯覚に陥る。そこには共有すること ができなかった「オランダの時間」と「日本の時間」が交わるかのように存在し、静かに時間が流れている。動きは時間を刻むように時と繋がり、その身体は残像として空間に浮遊する。