2026年度公募レジデンスプログラムについて
このたび、Dance Base Yokohama(以下、DaBY)2026年度公募レジデンスプログラムの採択結果について、ご報告いたします。
本プログラムは、アーティストが作品の完成を急ぐことなく、制作のプロセスそのものに時間をかけられる環境を重視している点を特徴の一つとしています。スタジオ、制作費、広報・技術面の支援を提供し、使途の制限や完成義務は設けていません。
2026年度は、8組のプロジェクトの採択を決定いたしました。本年度の公募には79組のご応募をいただき、3Fクリエイションスペースにて5組、1Fオープンスタジオにて3組のアーティスト/チームが、それぞれ異なる問いと方法論を携えて本年度のプログラムに参加いたします。
選考は、DaBYのスタッフが主体となって行っています。提案されたプロジェクトが持つ問いの切実さ、実現に向けた道筋の具体性、そして実験と一貫性のバランスから検討しました。同時に、採択した8つのプロジェクトがプログラム全体として多様な方向性を持つように配慮しました。作品の完成度や過去の実績そのものは、評価の軸としていません。制作の過程でどのような問いに向き合い、どのような領域に踏み込んでいくかは、アーティスト自身の裁量に委ねています。
採択に至らなかった方々からも、強い問題意識と独自の視点に裏打ちされたご提案を数多くお寄せいただきました。本年度の選考は、個々のプロジェクトを順位づけるものではなく、一年間のプログラム全体の中で複数の取り組みがどのように併走し得るかという観点から行いました。最終的な採否は、限られたスタジオの稼働枠と予算の制約による判断であり、ご提案そのものの価値を評価するものではございません。ぜひまたの機会にもご応募いただけますと幸いです。
Dance Base Yokohama
1Fオープンスタジオについて
本年度より、公募レジデンスプログラムの会場に1Fオープンスタジオが加わりました。これまで3Fクリエイションスペースのみで運営してきた本プログラムが、本年度より3Fと1Fの二つの会場で展開されます。1Fはパートナー事業者と共有しながら運営している場で、建物の出入り口に近く、日常的な人の往来がある場所です。
制作が安心して進められる環境は、アーティストの集中だけでなく、この場をともにする来館者、パートナー、近隣の日常とともに成り立つものです。本年度採択された8組のプロジェクトは、そうした環境のもとで同時に進行してまいります。
採択されたプロジェクト(計8組)
3F — クリエイションスペース
『After the Garden』
Ari Angkasa & Ishvara Devati
身体をコンポスト(堆肥)のような存在として捉えるリサーチプロジェクト。記憶、水、土に形づくられ、変化し続ける身体を、ムーブメントとメディアの実験を通して探る。崩壊と変容のプロセスを手がかりに、トランス女性の身体を、傷つきながらも持続する世界の中の「生きたエコロジー」として想像する。
『Organized Play 卓球編』
豊田ゆり佳
「Organized Play 卓球編」は、卓球の競技形式を用いながら、プレイヤーが”踊り続けなければならない”というルールのもとで試合を行う観戦型ダンス作品である。得点や勝敗といったスポーツの規範と、何がダンスかをめぐる曖昧な判断基準が交錯する状況を創出し、観客・審判・出演者それぞれが身体運動をいかに承認するのかを問い直す。卓球特有のラリーの緊張感とスピード感のなかで、身体と身体の”かけひき”そのものを立ち上げる。
『ハッスルと催眠のリサーチ(1)』
早川葉南子 & 森下瑶
森下と早川はフリーランスのダンサーとして活動しており、その経験を反映させながらワークライフバランスの問題に取り組みます。このプロジェクトでは過剰に働くことが、他人から尊敬され、自分自身を成長させる最善の方法とする「ハッスルカルチャー」と呼ばれるライフスタイルにおいて、自我を非「展示」的にさせる瞬間である”失神/催眠/睡眠/リラクゼーション”状態について考え、その身体性を探求し舞踏表現に落とし込むことを目標とします。
新作リサーチ & ワークインプログレス
Dr. Holiday Laboratory
山本ジャスティン伊等、石川朝日、小野寺里穂、油井文寧、ロビンマナバット +吉田雅史
2027年度の新作公演を見据え、特にラッパーのジェスチャーや身振りについてリサーチし、そのリハーサルおよびワークインプログレスを行う。今回はリサーチをより深めるため、ラッパー、ビートメイカーとして活動しながら批評活動を行う吉田雅史氏と協働する。
『A RIGHT TO ARM BEARS』
山田カイル × 野田容瑛
日本各地で問題になっている「熊害」と、外国人に対する排斥感情についてのリサーチを行う。山田カイルと野田容瑛は、共に日本国外にもバックグラウンドを持つアーティストであり、複数の場所や言語にアイデンティティの「不在」を抱えるという視点から協働を行ってきた。今回の滞在では、リサーチプロジェクト「A CALL TO BEAR ARMS」の一環として、「熊の視点から」熊害を考えるパフォーマンス「A RIGHT TO ARM BEARS」を制作する。「日本人/外国人」という二項対立に「熊」を持ち込むことで排斥の境界を撹乱し、その思考を様々なメディアを通して集積していくプロセス自体をひとつのパフォーマンスと捉え、「熊(他者)でもある我々の身体」をアーカイブしていく。
1F — オープンスタジオ
『LIVE』
SR/Yuria Onishi
大西優里亜、青柳潤
2人の作家のこれまでの経験を形式化した2作品を上演するダブルビル公演。
1作品目は、作家として活動する大西優里亜のシアタージャズダンスの経験を基に、ジャズミュージックの複雑なリズムを視覚化させる試み。楽譜ではなく音源からリズムを解釈することで、楽譜には起こしきれない些細なニュアンスやライブ特有のリズムを発見し、ダンスに落とし込む。
2作品目は、アニメのフィクション性に注目し、3次元空間での「2次元的体験」を創出する作家・青柳潤によるソロ作品。さまざまなツールを使用した視覚的な平面表現や現実に起こりうるフィクションの可能性を模索することで、ライブ表現に錯覚を起こすような時間を提供する。
『ニューダンス・テクノロジーズ』
ニューダンス研究会
松本奈々子、西本健吾/チーム・チープロ+桜井圭介+捩子ぴじん+砂山典子
「ニューダンス・テクノロジーズ」は2023年にパフォーマンスユニット「チーム・チープロ」とダンス批評の桜井圭介によって始動したプロジェクト。とある場所に繁茂している「動き」の収集・再構成・アーカイブ化をおこなったうえで、それらにもとづくダンス作品の上演を目指している。
このプロジェクトの最終目標は、フォーサイスの「インプロビゼーション・テクノロジーズ」に匹敵する、コンテンポラリー・ダンスの新しい身体技法のアーカイブをWEB上で公開し、全人類、ダンサーが使用可能なものとすることである。
なお、「とある場所」がなんなのかについては、いずれ行うこのプロジェクトの最終発表後に公表する予定。現段階では「ニューダンス・テクノロジーズ」におよそ1000個くらいの「動き」がアーカイブされると予想している。
今回は、その途上の試みとして、ダンサー・振付家の捩子ぴじん、ダンサー・パフォーマンスアーティストの砂山典子を迎え、「動き」の収集・再構成・アーカイブの作成とそれにもとづくダンスの試演を行う。今後も徐々にメンバーを増やしながら最終発表とアーカイブ公開に向けて活動してゆく予定。
『踊る絵画/身体(仮)』
asamicro、キムガウン、須賀真之
本企画は、画家キム・ガウンによる壁画「夢を描く人たち」を起点に、絵画と身体表現が交わる場について探究するリサーチプロジェクトです。神奈川公園の工事仮囲いに描かれた「静」なる絵画と、空間を拓く「動」なる身体。二つの表現が混ざり合うとき、そこにはどのような対話が生まれるのか。壁画に込められた意図や地域コミュニティへの貢献という文脈を整理するとともに、壁画の前で即興的に立ち現れる身体をつぶさに観察しながら、絵画と身体の出会い/交錯がパフォーマンスとして成立・機能する術を模索します。最終的には上演の形式でリサーチの成果を発表します。
上記8つのプロジェクトを2026年度公募レジデンスプログラムへと採択いたします。
Dance Base Yokohamaは各プロジェクトのために制作費の支援と制作業務、スタジオ利用のサポートを行います。