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【レポート】〈Dance Base Yokohama〉オンライン・プレス発表会~「この時代における“場”の意味、ダンスハウスにできることを問い直す」

曽根 可穂里

横浜・北仲エリアの「KITANAKA BRICK&WHITE(キタナカ ブリック&ホワイト)」BRICK Northの3階にオープンするダンスハウスDance Base Yokohama(ダンスベースヨコハマ)、略して「DaBY(デイビー)コロナウィルスの影響により、2020年4月23日に予定していた開業は延期に。6月中のグランドオープンを目指しながら「コロナ禍においてもできることを」と、5月28日にまずはオンラインでのスタートを切った。

去る5月21日に実施されたオンライン・プレス発表会には、アーティスティックディレクターの唐津絵理、ダンスエバンジェリストの小㞍健太、そして第1弾アソシエイトコレオグラファーの鈴木竜の3名が登壇。日本のダンス界の抱える課題に、DaBYがどのように取り組んでいくのか。このプレス発表会のもようを、発表会の後に解禁された情報等も含めながらレポートする。

アーティスティックディレクター 唐津絵理 ©︎Takayuki Abe

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オンライン会議ツールZoomを使用して開催された今回のプレス発表会。まずは唐津氏より同施設開業の経緯やこのコロナ禍による影響と対応について説明がなされた。

「もともと、場をつくる意識でDaBYを運営していきたい、ということは考えていました。ですが、このコロナ禍を経験して、“場”とは単なる空間を意味するのではなく、オンライン上でのつながりも同等に重要なのではないか、ということを再認識しています。リアルな場での開業はできない中でも、この2ヵ月の間、たくさんのアーティストやスタッフの方がご協力くださり、オンラインでの開業に至りました」(唐津)

続いては、ダンスの伝道師として舞台と観客をつなぐ「ダンスエバンジェリスト(*)」に就任したダンサー・振付家の小㞍健太氏が紹介された。

「私は、幼少の頃にクラシック・バレエを始めました。18歳でヨーロッパへ渡り、モナコのモンテカルロ・バレエ、オランダのネザーランド・ダンス・シアターに所属。過去10年間は日本とオランダを拠点に、フリーランスの振付家・ダンサーとして活動してきました。その中で、つねに苦労したのは日本の環境のこと。日本とヨーロッパを簡単に比べることはできませんが、自分の経験を生かして、プロのダンサーが専門的な視点を深めていけるような環境を作りたい。それと同時に、多くの方に舞台芸術を知ってもらえる機会を作っていきたいです」(小㞍)

(*)「エバンジェリスト」とは、IT業界などを中心に使われている言葉で、“難しい専門用語をわかりやすく伝える専門家”のこと

唐津絵理、小㞍健太 ©︎Takayuki Abe

また、アソシエイトコレオグラファーの第1弾として迎えられたのは、ダンサー・振付家として活躍する鈴木竜氏

「DaBYの第1弾アソシエイトコレオグラファーを拝命しましたこと、振付家として心から光栄に思っています。プロフェッショナルダンサーの活動環境が整っているとは言い難い日本において、この役職は非常に大きく重い責任が伴うものだと感じています。DaBYでは、クリエイションをはじめとしたさまざまなプロジェクトを通して、“After/With コロナ”の新しい時代のダンスの在り方を示していければと思います」(鈴木氏)

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次に、「新型コロナウィルスを受けての今後の方針」として、以下の“3つの柱”が紹介された。

①「DaBYチャンネル」開設

「DaBYチャンネル」は、YouTubeインスタグラム等を活用して、DaBYのコンセプトを体現するコンテンツを発信する企画。クリエイターたちが日常的に考えていることを共有することで、ダンサーが「クリエイターの言葉から知識を深める機会」を設けることが目的だという。また、講演やワークショップで行われるものを、アーカイブとして後世に伝えていく役割も果たす。

「DaBYチャンネル」開設記念ダンスムービー「Happy BirthDaBY Vol.1」。小㞍健太と鈴木竜、安藤洋子、中村恩恵、バレエ界からは酒井はな、小池ミモザ(モンテカルロ・バレエ)、飯島望未(ヒューストン・バレエ)など計24名のダンサーが出演。

②TRIAD INTERMISSION(トライアド・インターミッション)

横浜の〈赤レンガパーク〉・〈象の鼻パーク〉・〈DaBY〉の3拠点で5月上旬に開催予定だったDaBY開業記念イベント、「TRAIAD DANCE DAYS(トライアド・ダンス・デイズ)」。これもやはりコロナウィルスの影響によりやむなく中止となったが、リアルな場での上演から形を変えて“場所も時間も超えたダンスの在り方を探るクリエイション・プロジェクト”「ダンステレポーテーション」の始動や、DaBYでのトライアル公演のあと愛知県芸術劇場での本公演を予定していた「TRIAD DANCE PROJECT『ダンスの系譜学』」の上演延期が発表された(日程は調整中)。

③アーティストサポート(DaBY無償提供)

またこのコロナ禍において従来の活動を継続できなくなったダンスアーティストへの支援として、2020年6月30日(火)〜8月1日(土)のうちの一定期間、DaBYのスタジオを無償提供することも併せて発表された。リハーサルやクリエイション、自主練習のほか、オンライン配信のための撮影スタジオとしても使用可能。ダンスのレッスンなど集客を伴うイベントや有料イベントは対象外となる(詳細はウェブサイト参照。申込受付期間は6/7に終了)。

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発表会の最後には記者たちとの質疑応答が行われた。

記者1 DaBYの経営母体はどちらで、どのように収益を得ていくのでしょうか。施設の利用料は発生しますか。
唐津 DaBYの経営母体は、一般社団法人セガサミー文化芸術財団です。施設の使用料は無償を前提としていて、プロのダンサーを目指す方々になるべく負担なく使用していただける形を探っていきます。いくつかのイベントを開催していく中で、観客の方々に入場料をお支払いいただくことは出てくるかと思いますが、それだけで収支を成立させるということは考えていません。
記者2 発表会冒頭で小㞍健太さんと鈴木竜さんから「日本のダンス環境の難しさをひしひしと感じてきた」という言葉がありました。これまで本当にたくさんの困難があったことと思いますが、端的に言うと、何がいちばん問題だと感じ、何にいちばん苦しんできたのでしょうか。
小㞍 単にヨーロッパと日本のダンス環境の違いを比べるだけではいけない、難しい問題なのですが。まず、「ダンサーとして活動する」ということへの一般の認知度がすごく低い、と感じます。ダンサーとしての権利の主張がしにくい、ということです。また、ダンスのために日々、身体を作っていくことの難しさもあります。スタジオを借りるにもお金がかかってしまうから、身体を作ることすらできない。クラスを受けるための場所、ひいてはダンサー同士が情報や体験を共有する場所が、日本ではなかなか見つからない。DaBYではそのようなダンサーが活動していくための基盤になる場所を作っていけたらと思っています。

鈴木 何よりもやはり「プロフェッショナルのための環境がない」ということ。われわれの創作活動が、生業としてなかなか成り立っていかない。僕自身の経験から言うと、自分の作品を踊ってくれるダンサーにしっかりとした報酬を払えないというのが、いちばんつらい思いをしてきた部分です。健太さんもおっしゃるように、欧米と日本の環境の違いを簡単に並べて、欧米のやり方をそのまま日本に導入すればよい、ということではないと思います。日本に合った方法で、たとえダンサー各人がものすごく有名にならなくても、表現活動をすることによって生活していけるようにしたい。技術や能力のある人たちが活動していける場所が、どんどん増えていくといいなと思っています。

唐津絵理、小㞍健太、鈴木竜 ©︎Takayuki Abe

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最後は唐津氏が下記のように述べ、此度のプレス発表会は締めくくられた。

「私は愛知県芸術劇場のシニアプロデューサーとして、つまり行政の立場で、長い間ダンスの仕事をしてきました。今回は初めての民間機関での挑戦、そして日本では非常に珍しいダンスのための施設、ダンスハウスでの挑戦となります。そのオープンの矢先、コロナウイルス感染症の世界的流行により、いまはダンス界のみならず芸術に関わるすべての人が、大きな危機感を持つ時代となりました。その中であらためて、自分のミッションについて考え直しています。公演ができなくなったいま、私たちになにができるのか? 日常的に一般の方々との関係を築けているかどうかということを問われているように感じます。これまで一緒に仕事をしてくださったみなさんと、これからDaBYで何か一緒にやりたいと言ってくださる方たちを広く巻き込んで、新たな挑戦をしていきたいと思います」

施設情報

Dance Base Yokohama(DaBY)●所在地
神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2
KITANAKA BRICK&WHITE BRICK North 3階

●ウェブサイト
https://dancebase.yokohama/

●SNS
Twitter: @dancebasedaby
Instagram: dancebasedaby
Facebook: @dancebasedaby

 

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