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Dance Base Yokohama

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オルタナティブダンスのだらしなさについて:高橋萌登『仄仄』評

Dance Base Yokohama×愛知県芸術劇場×メニコン シアターAoi  パフォーミングアーツ・セレクション2025 Festival Edition|高橋萌登『仄仄』 
愛知県芸術劇場/©︎HATORI Naoshi


 MWMWを率いる高橋萌登の新作『仄仄』は、怪談に想を得たもの。しかし、確かにホラーテイストな雰囲気が随所に漂いはするが、立ち上がるイメージの全体はむしろ軽妙なおかしみが支配的だ。
 たとえば作品の冒頭では、青暗いあかりの灯された舞台のなか、片足で立っている一人の女が目を引く。浮かせている方の足は靴が脱げていて、やけに伸びきったタイツを履いている。するとそこに、片足だけの靴が、船のように悠然と舞台上を滑って行くが、女は気がつかない――。なにか象徴劇的な、心象風景のように捉えられもするシーンだ。伸びきったタイツは足の形を見えなくするので、女の片足は透明になってしまったようにも見える。彼女は、半身だけ幽霊になってしまったのだろうか。そのような不思議なイメージが惹起される。しかしそれにしても、この始まり方はただごとじゃない。
 片足だけ伸びきったタイツを履いている女。それは、ダンス作品の冒頭に出現するには、あまりにだらしがない身体イメージではなかろうか。素直に観れば、女は、片足を失ってしまったこの世ならざるものである。しかし、もっと素直に観れば、女は、タイツを履き散らかしてる人である。この、おどろおどろしさとだらだらした抜け感とが平気で共存しながら、めくるめくイメージが立ち上げられていくところに、『仄仄』の魅力がある。

Dance Base Yokohama×愛知県芸術劇場×メニコン シアターAoi  パフォーミングアーツ・セレクション2025 Festival Edition|高橋萌登『仄仄』 
愛知県芸術劇場/©︎HATORI Naoshi


 高橋は、幼少期より身につけて来たクラシックバレエの身体性と、ストリートダンスの自在な身体性とを総合した独自のスタイルを、「オルタナティブダンス」の名のもとで追求してきた。実際そのダンスには、シャープで理知的な印象を受ける端正な身振りと、とぼけたような大きくパワフルな身振りとが入り混じる。こうした二面性のある身体が動き回るにふさわしい、詩的でありながらどこか間の抜けたイマジネーションをふんだんに広げていく力の強さが、高橋の持ち味なのだろう。
 今回高橋は舞台を制作するのに先立って詩的物語『仄仄』を著し、そのテキストを基に作品を構成したのだという。¹ 特定の怪談を原作にしているわけではなく、高橋自らが考案したオリジナルの怪談をもとに作品はつくられたとのこと。この世ならざる場における、異形の怪異とのつかの間の交感と別離を描いたその筋立ては、少女が経験するイニシエーションの劇としても解し得るものだ。高橋独自の身体感覚に依拠して筆を運んだとみられるそのシナリオは、さすが「詩的物語」というだけある、ごく抽象的かつ感覚的な言語で紡がれている。しかし、立ち上がる舞台にセンチメンタルな感傷性は希薄である。「少女性」の名のもとにラベリングをして済ませるには、舞台上の身振りが、そしてイメージが、あまりに抜けていて、それでいてパワフルなのだ。
 音の使い方も独特だった。たとえば、擦過音。擦過音のがさがさいう音は、たしかに人の不安を煽る点では怪談向きの音に違いないが、劇場のなかで大音量で流され続けるには、生活感がありすぎる。それから、高橋の原作ではおそらく「九 裂け目より」の章にあたるシーンで流れる、「ひとつめ ふたつめ みっつめ よっつめ」という何者かの声。番町皿屋敷の例を挙げるまでもなく、数え上げの行為には呪術性のイメージがつきまとい、不気味なものだが、高橋はこの怪異の主に、なぜかおじさんの声を割り当てるのである。おどろおどろしい雰囲気のなか、威勢よくくりかえされるおじさんの数え上げの声は、とぼけていてしまりがない。

Dance Base Yokohama×愛知県芸術劇場×メニコン シアターAoi  パフォーミングアーツ・セレクション2025 Festival Edition|高橋萌登『仄仄』 
愛知県芸術劇場/©︎HATORI Naoshi


 くりかえすが、この『仄仄』という作品において、この種のとぼけただらしのなさは、断然肯定的というか、積極的な表現としてある。そもそも、このクールかつパワフルな怪異譚に『仄仄(ほのぼの)』という題名をあててみせるのが可笑(おか)しい。そしてこの可笑しさは、自覚的なものに違いないのだ。実際その表現は、怪談という言葉に付随するこわごわとした感じからは自由でどこか間が抜けていて、少女的な感性からも無縁でそれでいておちゃめで、それゆえになんとも名づけようのない奇妙な感情を観る人のうちにかき立てるのだから。そう、ここで改めて確認しなければいけないのは、端正さとだらしなさ、繊細さと豪胆さを身軽に行き来するオルタナティヴダンスの双極的な身振りが、簡単に言葉にしようとすれば取りこぼされるような感覚のあわいに手を届かせることに奉仕するものでもあることだ。目に見えない怪異との邂逅、という題材の選択や、原作となった高橋の物語の繊細な言葉選びからも、容易には名状しがたい感覚や存在を手放すまいとする高橋の姿勢が明らかだ。オルタナティブダンスのだらしなさは、そのような見過ごしに待ったをかけるための、創意あふれるアティチュード、ということができる。

 

 

2026年4月23日
植村朔也
メンター:乗越たかお(作家・舞踊評論家)

 

◆プロフィール

植村朔也

批評者。1998年12月22日生まれ。
過去の文章に「柴幸男 劇場の制作論」「その手のもとに「劇場」はある」(演劇最強論-ing webサイト掲載)「質問の陥穽 あるいは、透明性の時代」(スペースノットブランク公式サイト掲載)など。PARAにて「ドラッカーを読んで上演をつくる、集団をつくる」「「ドラマトゥルクの今日(The Dramaturg, Today)」(国際誌『Sound Stage Screen』掲載、英語、2021年)を読む」開講。DaBY ProLab 第1期 乗越たかおの“舞踊評論家【養成→派遣】プログラム”に参加し、スプリング・フォワード取材のため、開催地ダルムシュタット(ドイツ)へ派遣された。

乗越たかお 

作家・ヤサぐれ舞踊評論家。株式会社ジャパン・ダンス・プラグ代表。06年にNYジャパン・ソサエティの招聘で滞米研究。現在は国内外の劇場・財団・フェスティバルのアドバイザー、審査員など活躍の場は広い。著書は『舞台の見方がまるごとわかる 実例解説!コンテンポラリー・ダンス入門』(新書館)、『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』(作品社)、『どうせダンスなんか観ないんだろ!?』(NTT出版)、『ダンス・バイブル』(河出書房新社)、『ダンシング・オールライフ 中川三郎物語』(集英社)、『アリス ~ブロードウェイを魅了した天才ダンサー 川畑文子物語 』(講談社)など多数。
現在雑誌「ぶらあぼ」で連載中。舞踊評論家[養成→派遣]プログラムメンター。オンライン『ダンス私塾』主宰。

 

◆世界に羽ばたく次世代クリエイターのためのDance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト“Wings”

Dance Base Yokohama(DaBY)新プロジェクト「世界に羽ばたく次世代クリエイターのための Dance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト“Wings”」を始動しました。
本プロジェクトでは、日本のクリエイターが国際的なプレゼンスを向上することを目的とし、日本を代表するアーティスト、制作者、ドラマトゥルクや批評家の育成、作品の海外での上演、さらなる再演の機会創出を目指します。

プロジェクトの名称は “Wings” (読み方:ウィングス) と付けました。12名のクリエイターが、メンターや講師との対話や海外視察、見本市でのプレゼンテーションなどの研修を重ね、企画・創作・初演・海外発表・再演までのプロセスを体験します。
この活動と同時に、DaBYが国際的に飛躍できる環境整備を行い、クリエイターの活動の場を広げていきたいという思いを表現しました。
尚、本プロジェクトは、文化庁による文化芸術活動基盤強化基金 (※) におけるクリエイター・アーティスト等育成事業の【舞踊部門】で採択された3件の事業*のひとつです。5年程度の活動計画のもと、3年間にわたる弾力的かつ継続的な支援を得て活動を行います。

文化芸術活動基盤強化基金
文化庁令和5年度補正予算において措置された補助金により、クリエイター・アーティスト等の育成及び文化施設の高付加価値化のために行う事業を実施するため、独立行政法人日本芸術文化振興会に文化芸術活動基盤強化基金が設立されました。
こちらの基金により、次代を担うクリエイター・アーティスト等の挑戦・育成が支援されるとともに、その活躍・発信の場である文化施設の機能強化について、弾力的かつ複数年度にわたっての支援が行われています。
*ほかの採択団体は、公益財団法人新国立劇場運営財団、公益財団法人日本舞台芸術振興会 (東京バレエ団)です。

▶︎高橋萌登『仄仄』

▶︎世界に羽ばたく次世代クリエイターのためのDance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト“Wings”

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