公転する群れ――阿目虎南『R/evolution(s)』ワークインプログレス評
2025年3月29日(土)に上演された阿目虎南の新作ワークインプログレス『R/evolution(s)』は、いずれ来る本公演のオーディションを兼ねていた。阿目は4日間のワークショップを経たこのショーイングを通じて、15人の公募ダンサーから、本公演に抜擢する4人を選ぶことになっている。
本番も含めて5日間という実にわずかな制作期間で、チーム内にあらかじめ方法論や関係性の共有・蓄積もないまま、観客を呼ぶに足るだけの群舞を創り上げる。きわめてハードな条件での公演である。クリエーションの内容としては、基本的に阿目がダンサーらに踊りの範を示し、それをなぞらせるというかたちで振付の共有が図られたらしいが、阿目の振付を追うダンサーがもつそれぞれの身体の異なるありようは一様に均されることがなかった。踊られた身振りは武道の所作と見紛うようなボディワーク風の単純動作から、いかにも舞踏といった感じのものまで多彩であったが、概して即物的な印象が強く、個々のダンサーの体つきや佇まい、癖、身のこなしのばらついたありようがはっきりと呈されることとなった。

阿目虎南 /新作『R/evolution(s)』クリエイションワークショップ/オーディション
阿目は10年以上にわたって大駱駝艦に所属し、麿赤児に師事して舞踏のメソッドを血肉化したダンサーである。しかし、阿目は舞踏がしばしばスピリチュアルに語られる傾向に違和感を覚え、よりフィジカルで即物的な次元で舞踏を展開していきたいのだという。今回の上演にあたっては阿目のいう「Multi Layered Body」が舞踏メソッドとして掲げられ、公演のコンセプトとしても機能していた。「舞踏」の語についてまわるオリエンタルで土臭い匂いからさっぱりと決別したかのようなこのヨコ文字自体に、グローバルな市場を見据えて同時代的な実践としての舞踏を踊らんとする阿目の態度表明を読みとることもできる。
もっとも、実のところここでMulti Layeredといわれるような複層性を、上演のさなかの身体に看取することは甚だ困難であった。基本的に、踊りは身体の単中心的で安定的な構えを前提として見え、Multi Layered Bodyと呼ぶには疑問が残ったのである。公演詳細ページによれば、Multi Layered Bodyは「現象学からはものの見方や見え方を変える手法を彫刻からは作品の立ち上がる時間性・空間性をそれぞれ受肉した阿目独自の舞踏メソッド」だとのことであるが、作家のステートメントを云々する野暮を承知で書き残せば、私としては、より一層具体的に精緻化された定義をこのMulti Layered Bodyには期待したい。西洋からの一方通行的なまなざしを解除するために舞踏を脱神秘化する努力が要請されるとするならば、そこでは制作のさなかに交わされる言葉が、複数のまなざしを持つ他者との明確かつばらばらな共有の地平に開かれていることが望ましいと思うからである。
私が『R/evolution(s)』の身振りに共通して見出せたのはむしろ、たとえば次のようなファクターである。低重心。痙攣。緊張とリリース。姿勢の微細な変更、ブレ。これらが、主体が身体のそこかしこで組み変わるような見えを伴う、ダイナミックな変容の身振りを導くのである。

阿目虎南 /新作『R/evolution(s)』クリエイションワークショップ/オーディション
『R/evolution(s)』という作品名には、「革命」のみならず「公転」の含意がある。小刻みな振動や痙攣の身振りに透かし見られるような、他なる動力らの折衝に身体が巻き込まれてゆき、結果としては法則的な運動がマクロに現象する。その様を群舞を用いて表現することが、今回の作家の眼目の一つではなかったかと推察する。即物的に取り扱われる身体らは、小刻みに蠕動するばらばらな個でありながら、大きく旋回するマッシブな群れとしての全体へとかたち造られてゆくのだ。大人数での群舞となった今回のワークインプログレスでは、こうした集団的なダイナミズムを実現することに注力しているという印象を受けたが、人数を引き絞っての本公演では、この「公転」の主題がいかなる展開を見せるのかが、ひとつの見どころとなるだろう。
このワークインプログレスの熱量は、ラストシーンにおいてそのピークに達した。ダンサーたちは身振りの主導権を何者かに明け渡したような、操り人形を思わせる姿で、なにかのねじが外れたように舞い続ける。阿目はこのシーンを制作するにあたって、自分が合図を出すまで踊りを続けるよう、ダンサーたちに指示していたという。いつ終わりが来るのかを知らぬまま、かれらがただひたすらに踊りを続ける時、そこにはコントロールを外れた、どこか剥き出しの身体の寄せ集まりが露呈する。その点これは、神経質に微細な即物的身振りを通じて、他なるものに律された群れたちが蠢く異形の全体が顕現していくという、作品の特性を体現するシーンでもあった。

阿目虎南 /新作『R/evolution(s)』クリエイションワークショップ/オーディション
2025年7月22日
植村朔也
メンター:乗越たかお(作家・舞踊評論家)
◆プロフィール
植村朔也
批評者。1998年12月22日生まれ。
過去の文章に「柴幸男 劇場の制作論」「その手のもとに「劇場」はある」(演劇最強論-ing webサイト掲載)「質問の陥穽 あるいは、透明性の時代」(スペースノットブランク公式サイト掲載)など。PARAにて「ドラッカーを読んで上演をつくる、集団をつくる」「「ドラマトゥルクの今日(The Dramaturg, Today)」(国際誌『Sound Stage Screen』掲載、英語、2021年)を読む」開講。DaBY ProLab 第1期 乗越たかおの“舞踊評論家【養成→派遣】プログラム”に参加し、スプリング・フォワード取材のため、開催地ダルムシュタット(ドイツ)へ派遣された。
乗越たかお
作家・ヤサぐれ舞踊評論家。株式会社ジャパン・ダンス・プラグ代表。06年にNYジャパン・ソサエティの招聘で滞米研究。現在は国内外の劇場・財団・フェスティバルのアドバイザー、審査員など活躍の場は広い。著書は『舞台の見方がまるごとわかる 実例解説!コンテンポラリー・ダンス入門』(新書館)、『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』(作品社)、『どうせダンスなんか観ないんだろ!?』(NTT出版)、『ダンス・バイブル』(河出書房新社)、『ダンシング・オールライフ 中川三郎物語』(集英社)、『アリス ~ブロードウェイを魅了した天才ダンサー 川畑文子物語 』(講談社)など多数。
現在雑誌「ぶらあぼ」で連載中。舞踊評論家[養成→派遣]プログラムメンター。オンライン『ダンス私塾』主宰。
◆世界に羽ばたく次世代クリエイターのためのDance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト“Wings”
Dance Base Yokohama(DaBY)新プロジェクト「世界に羽ばたく次世代クリエイターのための Dance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト“Wings”」を始動しました。
本プロジェクトでは、日本のクリエイターが国際的なプレゼンスを向上することを目的とし、日本を代表するアーティスト、制作者、ドラマトゥルクや批評家の育成、作品の海外での上演、さらなる再演の機会創出を目指します。
プロジェクトの名称は “Wings” (読み方:ウィングス) と付けました。12名のクリエイターが、メンターや講師との対話や海外視察、見本市でのプレゼンテーションなどの研修を重ね、企画・創作・初演・海外発表・再演までのプロセスを体験します。
この活動と同時に、DaBYが国際的に飛躍できる環境整備を行い、クリエイターの活動の場を広げていきたいという思いを表現しました。
尚、本プロジェクトは、文化庁による文化芸術活動基盤強化基金 (※) におけるクリエイター・アーティスト等育成事業の【舞踊部門】で採択された3件の事業*のひとつです。5年程度の活動計画のもと、3年間にわたる弾力的かつ継続的な支援を得て活動を行います。
文化芸術活動基盤強化基金
文化庁令和5年度補正予算において措置された補助金により、クリエイター・アーティスト等の育成及び文化施設の高付加価値化のために行う事業を実施するため、独立行政法人日本芸術文化振興会に文化芸術活動基盤強化基金が設立されました。
こちらの基金により、次代を担うクリエイター・アーティスト等の挑戦・育成が支援されるとともに、その活躍・発信の場である文化施設の機能強化について、弾力的かつ複数年度にわたっての支援が行われています。
*ほかの採択団体は、公益財団法人新国立劇場運営財団、公益財団法人日本舞台芸術振興会 (東京バレエ団)です。
▶︎世界に羽ばたく次世代クリエイターのためのDance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト“Wings”