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Dance Base Yokohama

Dance Base Yokohama

Dance Base Yokohama 1階オープニング記念クロストーク|2025年8月23日

“ダンスをひらく” これからのステップ

地域とともに描く未来 〈後編〉

2026/6/25(木)

前編では、登壇者それぞれの現在地と、コロナ禍を経て変化するアーティストの意識を見てきた。後編では、ジャンルの壁を越えてダンスにひらかれていく動き、作品と観客をつなぐ「仲介者」の必要性、そして1階の新しいスペースで始まる地域に根ざしたプログラムへと話題が広がっていく。

 

ジャンルの壁を越えて、ダンスにひらく


岡見さえ
 アートと社会の関係がまた一つ新しい段階に進んだように感じます。DaBY、それから久野さんの財団ではダンス以外のジャンルにも助成をされていると思いますが、ダンスと社会の関係性をどのような場で実感しますか。

本ページ写真すべて©︎Hajime Kato


唐津絵理 もともと、この場所をつくる際に「ダンスハウス」という言葉を使うことにしましたが、この「ダンス」という言葉には非常に多くの意味が含まれています。ダンスは単なる狭義の身体表現だけを指しているわけではありません。ダンスには常に音楽があり、また空間芸術としての側面も持っているというように、非常に総合的なメディアです。そう考えて、音楽家や建築家、美術家をはじめ、これまでダンスとは少し距離のあった分野の方々にも、もっとダンスの世界に入ってきてほしいという思いを強く持っていました。そこでできるだけ異なる分野の方々に声をかけたいと思っています。たとえば今日ご登壇いただいている須川崇志さんも、さまざまな場でご一緒するなかでダンスに興味を持ってくださり、「ダンスで何かやってみたい」とお話ししてくださったり、公演を観に来てくださったりしています。実際に声をかけてみると、想像以上に多くの方がこのダンスというメディアに関心を持ってくださることを実感しています。
 日本では、どうしてもジャンルごとに分断され、それぞれの領域が閉じた状態になりがちです。特に芸術教育の面でも、芸術大学というと美術や音楽が中心で、パフォーミングアーツは十分に認知されているとは言えません。小中学校の芸術教育においても、演劇やダンスに触れる機会は決して多くありません。
 そうした状況だからこそ、まずは「こういう表現がある」ということを知ってもらうことが大切だと思っています。そして、一度知っていただくと、興味を持った人たちが少しずつ集まり、関わり始めてくれます。それは建築や美術、さらにファッションなど他の分野についても同じことが言えるでしょう。さまざまな領域の人たちが自然に行き来し、この社会のなかに新しい出会いや協働が生まれるような環境をつくりたい。そのためにも、できるだけ間口を広くし、風通しの良い場にしていきたいと考えています。


新井鷗子 そのあたりの流れが最近は変わってきましたね。今までは、ダンスとコラボレーションしましょうと言って、わざわざ大きく目標を掲げて取り組む形でしたが、今は自然に演奏のコラボレーションとしてダンスが入っていたりだとか、若いアーティストたちが開かれた気持ちを持って臨むようになってきたというのがありますね。

 

インクルーシブを突き抜けた先にある芸術


久野敦子
 いろんなジャンルに才能ある人はいらっしゃいます。「音のない世界」の感覚やろう者の身体性を、映画や演劇を通じて社会に問いかける多才な表現者、牧原依里さんという方がいます。私自身、彼女のやっていることから、全く想像しなかったアートの世界を学ぶ機会になっています。そういう出会いは、インクルーシブであることを突き抜けて、新しい芸術様式、共有できる場を作る可能性があるのではないかなと思います。このような作品を発表する場や出会う機会を持てたら、もっと面白くなるのではないかと思います。

唐津絵理 3年ほど前だったと思いますが、「ダンスのアクセシビリティを考えるラボ」という企画のなかで、視覚障害のある方にコンテンポラリーダンスを体験していただくプロジェクトを実施しました。そのときの経験は、私にとって非常に印象深いものでした。「見えないけれど、見る」という体験です。ダンサーの気配を感じたり、床から伝わる振動を受け取ったり、音を通して空間を想像したりする。そして、その体験を支える語り手は、目の前で起きていることをどのような言葉で伝えるのかを考えることになります。その過程で改めて感じたのは、「ダンスとは何か」という根本的な問いでした。同時に、アートをどのように他者へ伝え、共有し、コミュニケーションしていくのかという本質的な課題にも向き合うことになりました。私にとっては、アクセシビリティの取り組みであると同時に、芸術そのものを考え直す機会でもあったのです。
 このプロジェクトは実験的に一度だけ実施したものですが、可能であれば継続的に取り組んでいきたいと考えていました。しかし私たち自身に十分な専門知識やノウハウがあるわけではなく、継続的な事業として発展させることは簡単ではありませんでした。だからこそ、アクセシビリティやインクルーシブな取り組みをどのように継続可能な形にしていくのか、また専門性を持った方々とどのように協働していくのかということを今も課題として感じています。単に参加の機会を広げるだけではなく、芸術の本質的な体験をどのように共有していくのか。その視点を持ちながら、これからも考え続けていきたいと思っています。

作品と観客の「あいだ」をつなぐ人


岡見さえ
 皆さんのお話を伺って、ここ数年でたくさんの試みが芽生え、育ってきていることを実感しました。一方で、キーワードとして「巻き込む」と言いますか、それをたくさんの人に知ってもらえる機会がもっと必要なのではないかと思いました。もうひとつ、作り手でも純粋な観客でもない「間をつなぐ」ような、美術館でいう「作品ガイド」、アートコミュニケーターのような存在が割とポピュラーだと思います。
 とくにダンスや音楽のように言葉を使わない芸術だと、観客のみなさんは自由に見ていいけれど、正しいか正しくないかという基準はない一方で、自分が自由に見たものを発表していいのかという葛藤があります。アーティストについての知識があった上で、作品のつくり手と観客の間をつなぐ存在があると、より広がりやすいのではないかと思いました。フランスではアートメディエーターという仲介者の育成の試みが2000年代ごろから続いていますが、そうした芸術と観客を繋ぐ役割について、皆さんのお考えがあれば伺いたいです。



新井鷗子
 まさにアートコミュニケーターだと思います。今、美術では対話型鑑賞が流行していて、ひとつの作品のまわりに集まって、予備知識がなくても対話を通して作品の本質に迫っていくやり方があります。これを音楽にも生かせないかと考え、東京藝術大学での障害とアーツ研究という授業では、視覚障害の方と一緒に絵画鑑賞をして話し合う講座をしたり、聴覚障害の方と一緒に音楽を聴覚以外の方法で説明する鑑賞法を考えたりしています。
 そういうときに、作品についての解説だけでなく、障害の特性も理解し、人と人をつなぐスキルを持つ存在が重要です。音楽だけ、障害だけに詳しいのではなく、両方に詳しく、学びを社会でどう生かすかまで考えられるコミュニケーター/ファシリテーターが、これから必要になってくると思います。ボランティアではなく仕事として確立していくといいと思います。

唐津絵理 Dance Base Yokohamaを立ち上げる際、私たちはダンサーや振付家だけでなく、ダンスを取り巻くさまざまな人材を育成していく必要があると考えていました。クリエイティブスタッフやテクニカル人材、マネジメント人材はもちろん、現在お話にも出ているようなエデュケーショナルな役割やコーディネーター的な役割を担う人材も含めてです。しかし実際には、そうした役割を細かく分業できる環境を日本で整えることは容易ではありません。例えば私自身、愛知県芸術劇場で30年以上にわたり、ほぼ一人でダンス部門のプロデューサーを務めてきました。美術館の学芸員にも近いと思いますが、企画立案だけでなく制作・運営も担い、時には観客との対話を行い、広報やパンフレットの執筆まで担当することもあります。限られた人員で活動しているからこそ、多様な能力が求められる現実があります。
 一方で、それは個人にとって非常に負担の大きいことでもあります。本来であれば、それぞれの人が持つ才能や専門性を生かしながら活動できる環境が望ましいはずです。そのため、Dance Base Yokohamaではスタッフ育成にも力を入れたいと考え、ダンスに関心を持つ若い世代に積極的に関わっていただきたいと思ってきました。ただ、活動が広がるにつれて求められる役割も増え、必要とされる能力も多様になっています。最近特に求めらめるようになってきた感のあるコミュニケーターですが、この分野では、ダンスの歴史や背景に対する理解を持ちながら、人と人をつなぐためのコミュニケーション能力も求められます。そうした人材をどのように育成していくかは、大きな課題の一つです。もしこうした分野に関心があり、挑戦してみたいという方がいらっしゃれば、Dance Base Yokohamaとしてはぜひ歓迎したいと思っています。
 また、Dance Base Yokohamaでは立ち上げ当初からドラマトゥルクという職能を配置しました。日本ではまだ珍しい取り組みだったのではないかと思います。ドラマトゥルクは、アーティストと観客の間に立ちながら、創作の現場に関わる存在です。作品づくりに寄り添いながらも、外部の視点や観客の視点を持ち続ける役割を担います。アーティストの自由な創作活動を支えながら、同時に作品と社会をつなぐ存在とも言えるでしょう。こうした職能が日本でももっと広がり、多様な立場の人々が創作の現場に関わることで、舞台芸術の環境がさらに豊かになっていけばよいと考えています。

久野敦子 地域でそういう方が活躍してくれたら本当にいいと思います。美術館では導入が進んでいるので、人材育成も少しずつ実現に向かっていくのかなと期待しています。横浜市の美術館もそのような活動を担う部署がいち早くできていて、地域の方や子どもたちとのコミュニケーションプログラムを作ってやっていました。
 もう一つは広報宣伝のようなところも合わせて、ダンスの様子が多く見えないという声があるなかで、どんな風に面白かったのかが伝わる「口コミ」が実は一番強いのではないかと思っています。SNSも含め、見た人の言葉が人を動かすのが、まだまだ大きい。ロイヤリティのある観客を一緒に育てていくことができるといいですよね。

 

生活のなかに、ダンスが溶け込む場所へ


岡見さえ ちょうど話が一周して横浜に戻ってきました。横浜は美術も音楽も、そしてダンスの会場も多く、フェスティバルもあり、ダンスと近しい街、街の個性のひとつがダンスだという印象があります。この1階は「ダンスがいつもある場所」になるのでしょうか。

唐津絵理 1階の新しいスペースについては、しばらくの間、実験的な取り組みの場として運営していく予定です。早速来週からいくつかのプログラムをスタートしますが、それらはすべて一般の方が参加できる開かれた講座です。例えば、先ほどオープニングパフォーマンスを行っていただいた岩渕貞太さんには、「ゆるじわ体操」というどなたでも参加できるプログラムを担当していただきます。
 また、このエリアの特性を考えると、周辺にはオフィスが多く、横浜市役所も近いため、会社員として働いている方々も数多くいます。さらに、この場所はデザイン会社のセルディビジョン(celldivision)さんとのシェアスペースでもあります。そのため、これまでダンスやアートと接点のなかった人たちと共存しながら、新しい関係性を生み出す実験の場にもなり得るのではないかと考えています。例えば、日常的にパソコンに向かって仕事をしている人たちと、ダンサーやアーティストがこの場所でどのように関われるのか。あるいは、アーティスト自身がどのようなことに興味を持ち、何をやってみたいと思っているのか。そうした対話を重ねながら、さまざまな取り組みを試していきたいと思っています。
 また、酒井直之さんには、パーキンソン病の方々を対象とした「Dance Well」のプログラムを実施していただく予定です。これまでは3階のスタジオを利用していたため、移動の負担が大きいという課題がありました。しかし1階のスペースであれば、車椅子をご利用の方にも参加していただきやすくなります。アクセシビリティの面でも、新たな可能性が広がると考えています。
 この場所を通じて、これまで出会うことのなかった人たちがつながり、多様な活動が生まれていくことを期待しています。そのため、私たち自身が企画を行うだけでなく、新しいアイデアや提案も広く募集しています。


岡見さえ ここで行われているプログラムはふらっと来て大丈夫なのですか。

唐津絵理 そうですね。オフィスもありますので、入れる場所や時間帯については限られることもあると思いますが、基本的には開かれたプログラムとして行いますので、ぜひホームページ等をチェックして、まずはふらっと来ていただければと思います。


ダンスの社会化、その先へ


岡見さえ
 本当に生活の中にダンスが溶け込みそうな気がする新しい試みですし、とても期待の持てるプログラムだなと思います。様々な立場から様々な方法でダンスに触れて、ヒントを得て、インスパイアを受けられるような場になる予感をしています。そこから育っていって、新しいダンスの創造、未来につながっていくと良いなと感じています。最後に皆さんから一言ずつお願いします。

新井鷗子 今日はありがとうございました。先ほどパーキンソン病の方のダンスのお話がありましたが、病を社会化していかなければならないと思います。音楽の社会化、ダンスの社会化、病の社会化、さまざまなものを外側に開いていく、その時の仲介になるのが、ダンスや音楽なのかなと思いました。

久野敦子 私も、いろいろな可能性がここで生まれる場所だということを、具体的に考え、実行していらっしゃるお話を伺えたので、確信に満ちたものを得ることができました。一方で、質をどう上げていくのか、大きな舞台をつくる話なども、つながることと同時にそこの担保も本質的に大事なところだと思うので、別の機会にもお話できたらと思います。

唐津絵理 最後に少し個人的なお話になりますが、私は大学時代、久野さんがセゾン文化財団にいらっしゃる前に従事されていた「スタジオ200」という池袋のスタジオ/ブラックボックスシアターによく通っていました。実験的なダンスや舞台芸術に出会うことができる場所であり、振り返ると、私自身のパフォーミングアーツ感を形成した原点の一つだったように思います。久野さんとは長いお付き合いになりますが、実はこうして同じ場でじっくりお話しする機会は今回が初めてでした。とても貴重な機会をいただけたと思っています。
 新井さんとのご縁については、2023年にDance Base Yokohamaが企業メセナ協議会のメセナ大賞を受賞したことがきっかけの一つです。発足からわずか3年という段階で大きな賞をいただくことができ、Dance Base Yokohamaの継続性もまだ見えない時期だっただけに、大きな励ましとなりました。新井さんは公立劇場の館長を務められる一方で、大学におけるインクルーシブな取り組みなども実践されており、私自身、学ばせていただくことがたくさんあります。今後もぜひいろいろと教えていただきたいと思っています。
 岡見さんとは、学生時代から舞踊研究の分野でご一緒させていただいており、長年にわたって活動を見守っていただいてきました。そうしたご縁もあり、今回ご登壇をお願いしました。
実は今日のような形で皆さんと一緒にお話しするのは初めてだったのですが、個人的には、できればこの分野でご活躍の女性の皆さまとこの場をつくりたいという思いもありました。その意味でも、今回お願いした皆さんにご参加いただき、このような機会を持てたことを本当にありがたく思っています。
 短い時間ではありましたが、ご登壇いただいた皆さま、そして会場で耳を傾けてくださった皆さまに心より感謝申し上げます。今日お話しできたのは、まだほんの入り口に過ぎません。Dance Base Yokohamaや私たちが考えていることの一端に触れていただいた段階だと思っています。ぜひこの後も、さまざまなご意見やご感想をお寄せいただければ幸いです。本日はありがとうございました。


岡見さえ ありがとうございました。


〈了〉 このレポートは2025年8月23日に開催されたクロストークの記録です。

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