[Wings]『R/evolution(s)』ボディリサーチレポート(阿目虎南)
阿目虎南『R/evolution(s)』エディンバラ渡航前テクニカルリハーサル|Dance Base Yokohama
1. 序論:生成の実験場としてのボディリサーチ
2026年6月から7月にかけて、阿目虎南はDance Base Yokohama(DaBY)を拠点に、エディンバラ・フェスティバルでの上演を見据えた『R/evolution(s)』のボディリサーチ(全7回)を実施した。本リサーチは横浜をハブとしつつ、東京・大阪・バンクーバー・台湾をオンラインで接続し、出演ダンサー(長田萌夏、鶴見香弥、畠中真濃、松倉祐希)およびプロダクションチーム(Dance Base Yokohama)が協働する国際的な実践研究として展開された。
本リサーチの目的は、ワールドプレミアを経た作品を再現・維持するための「フォームのリハーサル」ではない。一度成立した作品の身体組織をあえて解体し、再び可塑的な生成状態(In-Formation)へ引き戻すことで、作品を根底から更新する試みである。
その理論的基盤をなすのが、阿目が提示する身体論「Multi Layered Body(MLB:多層的身体)」であり、この理論を身体実践において動的に検証・展開するための実践論が「Fold Interference Method(FI:折り重なりと干渉の方法論)」である。
2.Multi Layered Body ── 存在論としての多層的身体
Multi Layered Body(MLB)とは、身体をいかなる存在として捉えるかという存在論的・身体論的フレームワークである。MLBにおいて、身体は単一の解剖学的個体でも、内面的な表現を吐露するための「媒体」でもない。身体とは、以下のような多種多様な層が複層的に交差する、流動的かつ一時的な組織化の「場」である。
解剖的・生理的Layer(骨格、神経系、呼吸)
知覚・感覚的Layer(張力、摩擦、トルク)
時間・記憶的Layer(過去の動的習慣、歴史、滞留する時間)
環境・空間的Layer(重力、大気、建築、オンラインを媒介する物理的距離
関係・社会的Layer(他者との距離感、まなざし、言語的応答)
身体は完成された静的な形態ではない。諸Layerが相互に干渉し合うことで、その都度異なる「Organization(一時的な身体の組織化・秩序)」を結び直す、絶え間ない生成的プロセスそのものとして再定義される。
3. Fold Interference Method ── 生成の運動学とForceの概念
Fold Interference Method(FI)は、MLB理論を身体運動として検証するための具体的な実践研究手法である。
① 干渉(Interference)の設計
FIは、変容した「結果としての身体状態」を目的としない。身体を構成する諸条件に対して、以下のような意図的な干渉を働きかけた際、身体がいかなるプロセスを経て再編成されるかという「生成過程の条件」を研究対象とする。
Compression(圧縮) / Division(分断)
Friction(摩擦) / Delay(遅延)
Resonance(共鳴) / Collapse(崩壊・解体)
② PowerとForceの厳密な区別
FIの核となるのが、「Power」と「Force」の概念的区別である。
Power
定義と運動の質:筋肉の収縮により、内面から発せられる自主的・自発的な力
身体の位置づけ:運動を発動させる「主体」
Force
定義と運動の質:外部(重力、磁力、空間、あるいは客体化したイメージ)から到来する力
身体の位置づけ:力を歪みなく通過・滞留させる「通過媒体(Passage)」
ダンサーは、自発的な意志ではなく、身体の余分な緊張を解き、外部・内部を貫く「Force」が通過するための物理的・感覚的条件を整える。これにより、身体内部には自発的表現を超えた圧力、摩擦、抵抗、反発、密度、振動、トルクといった純粋な物理現象が生成される。そして「Force」を緒として部分的に「Power」の生成を意識する。

阿目虎南『R/evolution(s)』エディンバラ渡航前テクニカルリハーサル|Dance Base Yokohama
4. Dance Base Yokohamaにおける実践プロセス
全7回のリサーチでは、主要モチーフである「糸」と「球」を用い、身体が生成される諸条件を多角的に検証した。[身体の解き] → [「糸」のワーク] → [「球」のワーク] → [言語化と対話] 脱力と Force 神経・方向性・抵抗 重力・密度・循環 Creolized Bodyの回路形成 トルク・摩擦現象の生成 内外の往還と波動 Methodの理論更新
Step 1: 身体を解く ── 力の通過回路の形成
呼吸と重力の認識を軸に、身体を「Forceが通過する媒体」へと解きほぐす。流動を促す状態から、流れを狭めて密度や真空状態をつくり出し、受動的でひらかれた条件(Passivity)を構築した。
Step 2: 「糸」のワーク ── 軸・神経・力学的現象の生成
「糸」を可視・不可視の関係性の象徴として扱う。垂直方向のForceで身体の軸を立ち上げた後、水平・斜め・螺旋へ方向性を拡張。反復運動を通じて、身体内部に摩擦・抵抗・痙攣・トルク(捻り)を発生させ、力学的現象を肉体へ滞留・通過させた。
Step 3: 「球」のワーク ── 重力・密度・空間との相互侵入
「球」を重力とエネルギー密度の象徴として扱う。円運動や8の字運動を用いてForceを移動させ、微細な振動から全身の解体(Collapse)へと身体を変容させた。このプロセスにより、皮膚という境界線を越えて「身体内部」と「外部環境」を絶えず往還する感覚を練り上げた。
5. 舞踏(Butoh)との継承と隔絶
Fold Interference Methodは、舞踏の身体メソッドを深く参照・継承しつつも、その関心と哲学的スタンスにおいて決定的な「隔絶」と「発展的転回」を果たしている。
① 「身体変容」から「身体生成の条件」へ
舞踏が変容した変性意識状態や「化ける」ことそのものを重視するのに対し、FIは「身体がいかなる力学的・知覚的条件のもとで生成・再編成されるのか」という論理的・構造的プロセスに焦点を当てる。
② 「脱力」の再解釈
舞踏における「脱力」を、FIでは単なる弛緩(Relaxation)ではなく、「複数方向に交差するForceを通過させるために、そして拘束を与えるための身体構造を解きほぐす操作(Unbinding)」として力学的に再定義する。
③ 概念・情感の排除と純粋現象学
舞踏がしばしばモチーフとする「感情(悲しみ、情念など)」や、「愛」「死」といった象徴的・大文字の概念を、FIは排する。身体に生起する出来事をすべて感情以前の「現象(圧力、密度、振動など)」としてのみ捉える。この純粋な現象学的アプローチにより、「死のダンス」として神秘化されがちな舞踏観から明確に隔絶し、再現性の高い運動学的な研究基盤を構築している。
6. 言語化と対話によるMixed Bodyの構築
本リサーチの最大の特徴の一つは、実技と同等に「言語的対話とリフレクション」に大きく時間を費やした点にある。
舞踏以外の異なるダンス背景(バレエ、コンテンポラリー、アフリカンダンス等)を持つダンサーたちが、自身の肉体に起きたミクロな現象を言語化し、対話を重ねた。この「言葉と身体の相互翻訳」を通して、固有の身体文脈が交差するMixed Bodyが生成された。
さらに、振付家ソロの領域にとどまらず、出演ダンサー、さらにはDaBY制作スタッフ(神村結花)との批評的対話がリアルタイムでフィードバックされることで、Fold Interference Method自体が常に再記述され、進化を続ける「動的メソッド」として機能した。
7. 結論:上演は研究プロセスであり、研究プロセスの上演である
Dance Base Yokohamaで実施された一連のボディリサーチは、Multi Layered Body(理論)を Fold Interference Method(実践)によって絶えず検証し、その枠組み自体を書き換え続けるオープンエンドな創発的プロセスである。
『R/evolution(s)』における「公転」や「革命」とは、表現に陥ることなく外部から到来するForceに身を晒し、既存の自己身体(Organization)を一度Collapse(崩壊)させ、他者や環境との干渉のなかで再び新しい身体を組織化し直すという「運動原理そのもの」である。
本研究が提示するのは、以下の強固な存在論的確信である。
上演とは現在進行形で行われる「研究プロセスそのものの立ち上げ」であり、研究プロセスこそが「観客と共有されるべき上演」である。
身体とは完結した物質ではない。それはForceの干渉によって絶えず生成され続ける、多層的で開かれた未来の試作場である。
2026年8月10日
阿目虎南

阿目虎南『R/evolution(s)』エディンバラ渡航前テクニカルリハーサル|Dance Base Yokohama
◆プロフィール
阿目虎南
振付家・ダンサー。燦然CAMP主宰。 武蔵野美術大学彫刻学科卒業(2010)大駱駝艦に所属、麿赤兒に師事(2008-2019) A5yl/燦然光芒芸術監督(2022-2024) コンセプトは「即物性のドラマ -意識や力における質感の描写/変容と対比による時空間の生成-」 ソリッドかつ緻密な身体性、メタ的でありながら熱狂を伴うダンス作品を制作。強度を伴う技術と哲学を有し、現象学・彫刻的視座に基づく舞踏技術「Multi layered body」を研究実践。国内外でWSや公演を行う。また、舞台・ドラマ・映画・PV・CM等多数出演。 受賞歴として、英国アカデミー賞公認映画祭 ダンス部門(2019)International Gombrowicz Festival 準グランプリ(2022) Butoh Lab Camp、武蔵野美術大学などで講師を務める。
◆世界に羽ばたく次世代クリエイターのためのDance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト”Wings”
Dance Base Yokohama(DaBY)は、新プロジェクト「世界に羽ばたく次世代クリエイターのための Dance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト”Wings”」を始動しました。
本プロジェクトは、文化庁による文化芸術活動基盤強化基金におけるクリエイター·アーティスト等育成事業の【舞踊部門】で採択された事業のひとつで、日本のクリエイターが国際的なプレゼンスを向上することを目的とし、日本を代表するアーティスト、制作者、ドラマトゥルクや批評家の育成、作品の海外での上演、さらなる再演の機会創出を目指します。
▶︎阿目虎南『R/evolution(s)』
▶︎世界に羽ばたく次世代クリエイターのためのDance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト“Wings”