2024年度公募レジデンスアーティストにつきまして
ご報告(審査概要)
Dance Base Yokohama(DaBY)はまもなく開館から4年を迎えます。
昨年度から、DaBYレジデンスアーティスト/ダンサーについても一般公募を行うなど、内容に少しずつ変更を加えていくことで、より日本の舞台環境に適したあり方を探ってきました。(活動継続の方を含めた一覧はこちらをご覧ください)
そういった状況の中、今年度も引き続き、より若い世代に充実した創造環境を提供できるよう、35歳以下のアーティストに向けて、DaBYレジデンスアーティストの公募を行いました。また今回は、会場提供、広報やテクニカル協力に加え、制作補助費をサポートの対象とすることに致しました。
その結果、2023年12月8日(月)~12月26日(月)の募集期間で、18か国から75件の応募があり、各アーティストへのヒアリングと日程調整を経て、7件のプロジェクトを採択することを決定しました。昨年度よりもはるかに多くの方にご応募いただき、創作の場はもちろんのこと、様々な形での創作サポートへの期待とその必要性を痛感しているところです。
皆様の熱量を感じる企画書に、選考は大変苦慮いたしましたが、下記の5つの視点を選考基準としました。
・プロフェッショナルなアーティストとしての活動を推進したいと考えていること。この場合のプロフェッショナルには、自身の活動を通して社会との接点や観客との関係性の構築を行い、社会の中でのアーティストの役割を思考することを含みます。
・他のアーティストやスタッフとの対等な関係で創造活動を行うこと。DaBYに集うすべての人々は互いにリスペクトしあい、フラットに意見をシェアするように努めること。
・経済的、実務的な側面からも、アーティストやカンパニーにとってなるべく負担にならならず、実現可能性が高い企画であること。演出・振付家のみならず、創作を共にする出演者やスタッフなどに適正な金額の経費を支払うことのできる予算計画書となっており、助成金の有無を含め、あらかじめ規模が明確なもの。
・国内拠点アーティストについては、昨年度のレジデンスアーティストに継続的に利用いただくことで、これまでDaBYで行ったリサーチやショーイングの成果を継続してさらなる展開へと繋がっていくことを期待しています。
・海外拠点アーティストについては、単なるレジデンススペースとしての使用のみならず、日本や横浜といった地域性や歴史性、さらに日本のダンサーとの交流など、DaBYという場への必然性をより強く感じられる企画内容やアーティストであることを優先しました。
ヒアリングではDaBYと各アーティストの取り組みとを共有し、舞台環境の改善のためにアーティストが考えている様々な思考を知ることのできる大変素晴らしい機会となりました。
スタジオのスペース上、充実した創作環境を提供するためにはアーティストの数を制限する方が良いのかもしれませんが、しかし、今日の状況において、日本の舞台環境を共に考えていきたいと願い、一人でも多くのアーティストの方々と問題意識を共有し、意見を交わしあっていくことが重要だと判断しました。そのため、今年度はスケジュールを調整して、なるべく多くのプロジェクトに活用していただけるように予定より2組増枠し、下記の7組を今年度のレジデンスアーティストとして決定致しました。
引き続き、芸術の育成・発展に尽力してまいりますので、皆様にはさらにご支援いただきますよう、あらためて、どうぞよろしくお願いいたします。
Dance Base Yokohama
採択されたプロジェクト(計7組)
・代表者名(敬称略、レジデンス利用順)
・拠点
・作品について
の順で表記
Deva Schubert
ドイツ
ダンスパフォーマンス『GLITCH CHOIR』は、グリッチという現象をアナログ空間に移し替える。作品の中心にあるのは、グリッチを通した嘆きの唄の再構成である。歴史的に、公的な喪は主に女性、いわゆる哀悼者によって執り行われてきた。彼女たちは報酬と引き換えに、故人に対する他人の悲しみを情緒的に表現した。 二人の女性パフォーマーは、親密な多重共鳴の空間を作り出すことによって、弔いの集合体を開いていく。哀歌にすでに内在している声の歪みの中で、弔いが集団的なグリッチへと変容する。周波数の不協和音からどんな合唱が生まれるのだろうか?DaBYでのレジデンスで現地のダンサーとのコラボレーションを通して、デュエットをより多くの身体また声を使った作品に発展させたい。
クレジット:Chihiro Araki、Davide Luciano、Lotta Beckers
Dapheny Chen
シンガポール
文化労働者の労働に疑問を投げかけ、反映させ、批評することで、このプロジェクトは単なるダンスではなく、資本主義の枠組みがいかにアーティストの貢献を軽視しがちであるかに挑戦する対話となる。労働集約的な表現としてダンスを検証することで、ダンス作品の多面的な性質に焦点を当て、職業としてのダンスがより広く認知されるよう提唱し、芸術における持続可能で包括的な未来を支えるために、公平な労働慣行を推し進めることを目的としている。 芸術における公平な労働慣行の未来はどうなるのか?アーティストを不可欠な存在として認識するために、どのようにナラティブを再構築できるのか?
AWPlanet(Alexis Kam/Dynamic Wang)
マカオ/中国
本プロジェクトは、身体的な動き、デジタル画像、AIによるコンテンツ生成(AIGC)技術を組み合わせ、交差させながら、探求の旅に出る。 肉体を解析し、再解釈することで、仮想のモノへと変換する。現実世界に肉体を持たないAIは、私たちが作り出した身体表現をどのように理解するのだろうか。 仮想世界と現実の間で、身体が配置され、解剖され、移り変わるとき、果たしてそれは現実として捉えられるのか、それとも単なる幻影なのか。生命と現実の重要な媒体として機能してきた身体。しかし、こうした状況下で、仮想の情報が氾濫する中、私たちはどこまで真正性を保つことができるのだろうか。 これは、感情的な人間の身体表現とAI技術の論理的推論との間の議論の的となりうる対話を提示する、視覚的に魅力的で壮大なパフォーマンスとなるでしょう。
Tiia Kasurinen
フィンランド
新しいソロ作品では、ジェンダー化されたパフォーマンスとムーブメント、ソーシャルメディアの身体とアイデンティティ、そして詩についての私のリサーチに着想を得ている。また、哲学者・詩人のアン・カーソンによるエッセイ『The Gender of Sound』からも着想を得ている。 周波数、音程、声の表現は、ダンサーの身体と観客にどのようなものを呼び起こすのか。これらのテーマから着想を得て、振付、ドラァグ・アート、音楽によるソロ作品を作るために、ムーブメントを創作する。
Dance Base Yokohamaは、私たちにとって、「ダンス」を考える上で非常に重要な拠点のひとつです。私たちは長らく、「ダンス」に於ける主体性と客体性の関係について考えてきて、この機会に思い切って「作品」としての「ダンス」に強く向き合ってみようと思います。2023年度は「継承する身体」と題して、継続して研究開発をしてきた「フィジカル・カタルシス」を「継承」する試みを実施しました。2024年度は、「フィジカル・カタルシス」を実践的に活用した「ダンス作品」の制作に臨みます。メンバーとして、「継承する身体」から引き続き、宮悠介さんと山口静さんにご協業いただきながらも、さらなる新しい方とも出会うことを目指し、「ダンス」を通じて「作品」とは何かを考える時間を過ごしたいと思います。そしてその成果としての「ダンス作品」を、より多くの皆様にお楽しみいただけるよう、ベストを尽くして参ります。よろしくお願いいたします。
藤村港平
日本
よく「私の身体は、」なんて言い方をするが、本当は身体は私のものではない。 僕は普段、自分の身体を通して何かを考えたり/考えさせられたり、表現したり/表現させられたりしていて、それを自分のこととして引き受けようとしている。 けれども身体は、そんな私の一歩手前で既に、他の何かを直感していて、まるで子供が車窓を流れる風景の何もかもを口にするように、動きまわる。
私は踊っているフリをしながら 身体を追いかけるが 身体はぐんぐんと遠ざかり 私を置き去りにして 宇宙のどこかのホワイトホールになる
僕は、永遠に辿り着くことの出来ない身体に圧倒されるのだけど、一方では、身体を手放し遠くから眺めることに自由を感じる。
Niki Verrall and Texas Nixon-Kain
オーストラリア
テキサスとニキは、体現的かつ想像的な反応における現在の活動を基に、Dance Base Yokohamaでの滞在中に新しい振付プロジェクトを探求する。我々の継続的な注意を必要とする進化する社会のダイナミクスを参照して、彼ら自身が作り上げた構造の中で、どのようにバランスが示され、再調整されるかを探求する。テキサスとニキはそのプロセスにおいて、外的な干渉の中で共通の目的に向かっていく間に、絶え間ない進化を遂げる身体経験との関係の重要性を考えている。
上記7名を2024年度レジデンスアーティストに採択いたします。
Dance Base Yokohamaは各プロジェクトのために制作費補助と制作業務、スタジオ利用のサポートを行います。
また、下記6名にはリハーサルやWSのためのスタジオ利用のサポートと広報協力を行います。(敬称略、50音順)
浅川奏瑛(Kanae Asakawa)
阿目虎南
酒井直之
袴田美帆・小板哲雄
y/n(橋本清、山﨑健太)
昨年から活動を継続する方々(敬称略、50音順)
DaBYレジデンスアーティスト
岩渕貞太
柿崎麻莉子
小暮香帆
鈴木竜
橋本ロマンス
ハラサオリ
平原慎太郎