DaBYパフォーミングアーツ・セレクション2021
酒井はな『瀕死の白鳥』/ 『瀕死の白鳥 その死の真相』
白いチュチュとヘッドドレスのバレリーナが、広げた両手を羽ばたかせながらポアントで踊る姿は、あまねく人が「バレエ」を思い浮かべる際の、万国共通のイメージではないだろうか。日本を代表するプリマ・酒井はながこれを踊ることの必然性と説得力が、静謐な美しさとともに、客席の隅々にまでゆき渡る。が、はかなげに死んでゆく白鳥を見届け「バレエを観た!」という満足感と余韻に浸る観客を前に彼女は、あろうことか、サンサーンスのメロディを「♪テーレーレー」と鼻歌のように口ずさみながら、ポアントで再登場。ナチュラルすぎる現代口語で、自分=白鳥の死因について饒舌に語り出す。
コントのようなこの展開、劇作家・演出家の岡田利規は、『瀕死の白鳥』を言葉のないドラマとして創り上げた振付家フォーキンとダンサー酒井はな+白鳥の代弁者となって、モノローグを紡いでいる。なぜこの白鳥は死ぬのかという根本的な命題には「環境破壊」とのリアルかつタイムリーな回答を与え、バレエダンサーが白鳥になり切るために心と肉体をコントロールする、その献身と格闘の過程をも言語化して、バレエという芸術の成り立ちを解析してみせるのだ。バレエと演劇の有機的な融合を実現させた、金字塔的作品と言っていいと思う。
2021年12月10日 [会場:KAAT 神奈川芸術劇場<大スタジオ>] 観賞
伊達なつめ