PAS2023 島地保武×環ROY×唐津絵理 鼎談 コントから発展する新作『あいのて』
「パフォーミングアーツ・セレクション2023」にて作品を発表するアーティストとのトークシリーズ。
今回は、島地保武、環ROY、唐津絵理による鼎談をお届けします。
唐津絵理(唐津以下):本日は、ありがとうございます。現在創作中の『あいのて』について、お話をお聞きしたいと思います。まず、お二人がコラボレーションした前作『ありか』(2016)は、ある意味、異ジャンルの格闘のような作品でした。全く違うものが向かい合うことで起こる対立をどのように乗り越えていくかというようなストーリーが見えてきたと思います。また、劇場の空間全体を使ってパフォーマンスを行い、お客さんも両側から鑑賞するというスタイルでしたよね。一方で、今回は「パフォーミングアーツ・セレクション」の作品として、お客さんが前にいるという状態で作品を作るとなると、空間の中での2人の関係性が大きく変化すると思います。『ありか』では、向かい合ってたことが多いと思いますが、今作では、2人とも客席を見て、お互いが共に存在しているような状況になり、最初は少し戸惑っていたのかなとも感じていました。最初の『ありか』から新作を作るにあたって、どのようなことを考えられていたか、教えていただけますか?
島地保武(以下島地):今回、プロセニアムの舞台になった時に、2人ともお客さんの方を向いているというのは、なんだか違和感がありました。『ありか』では、いつも自分の前に環さんがいて、相手の矢印をいつも感じていたのですが、その矢印がお互い同じ方向を向くことになり、どうしたらよいだろうというのが最初の問題でした。そこで、お客さんに向かって2人で話すと言った時に、コントとか漫才の形式が良いのではないかと思い始めたんですね。でもその前かな、何か戯曲を使いたいというアイデアもありました。環さんはどうですか?
環ROY(以下環):コントというものを作ってみたいっていうことが少しあった気がします。自分が異なる形式の領域の板に乗せられる時に、自分の既に持ってる能力の中で一番シンプルにしたものってなんだろうなと考えたら、コントかなって思ったということが一番近いです。でも正直、やってる感覚としては謎のものです。前回の『ありか』では、ラップとかダンスが持ってる動的な性質がストレートに出ていますが、それに比べると、今回はかなり静的な性質だと思います。ダンサーとラッパーってフレーミングすると、何でこれををやるのかがよくわからないと思いますが、島地保武と環ROYというパーソナリティに対して、何故これをやるのかっていうと、「なるほどね」となるはずです。
唐津:それはよくわかります。今回、それぞれ別々の理由ではあるんだけれど、目指す方向性は、最初の段階から共有できていたってことですよね。『ありか』の時は、全てが新鮮だったと思いますが、今回また一緒に作品を作ろうという中で、これまでの経験を踏まえて新たにチャレンジしてみようと思ったことはありましたか?
島地:先ほどお話しした「戯曲」ですかね。2人で演技をしようというアイデアです。そこで、今作のドラマトゥルギーの長島確さんにいくつか作品を紹介していただき、最終的に行き着いたのが、ホフマンの『隅の窓』(1822)でした。『隅の窓』は、2人で同じ風景を見て話すというシチュエーションと物語の主役が人ではなく風景になっているところがいいよねということで、『隅の窓』の状況設定を借りて、創作を進めることになりました。それから、2人が眺める風景の題材を現代に置き換えて考えた時に、長島さんに『コヤニスカッツィ』(1982)という映画を紹介していただきました。その映像を見ながらコメントをするということを、2人が別々に行い、録音したものを文字起こしして、テキストにしました。このような形で、映像を見て、それぞれが言葉にしたものからセリフをつくったというプロセスが今回面白いなと感じています。
唐津:映像の内容にインスパイアされてセリフが生まれたという訳ではなくて、同じ映画を見ながら、それぞれが思いついた言葉を発したということですよね。その時にはどんなことを考えて言葉を発していましたか?例えば、戯曲作家がテキストとして書いた時には、言葉に乗せるメッセージ性が強くなると思うのですが、即興的に話したということで、無意識的に出てきた言葉が多いのでしょうか?
環:日常的に考えていることがそのまま言葉として出てきたという感じでした。それから、かなり編集をしてテキストを作っています。
唐津:環さんは、ラップを書く時にも自分が思っていることを詩に書いているんですよね。そうなると、今回やっていることはあまり変わらないということでしょうか?また、今回普段のラップをやっている時と異なる点はどんなところでしょうか?
環:あまり変わらないと思います。普段と異なる点を挙げるならば、セリフがあることですね。音楽上の言葉の方が、音楽が持つ形式に隷属する形になるので、その言葉が使われる経緯が創作する側と受容する側で共有されていると思うんですよね。そのため、セリフの方が言葉の扱いに注意しなければいけないなと感じます。
唐津:それは演劇の形式としても同じことが言えますよね。今回、2人が語ってるテキストというのは、フィクションなのでしょうか?ノンフィクションなのでしょうか?
島地:話している内容はノンフィクションではないです。ただ物語ではないので。僕たちは、舞台でやってるっていうフィクションの中で、普段思っていることを喋るっていうことをしています。そこでただ喋ってるだけではなくて、今どこで喋ってるんだろう、2人は同じところにいるんだろうかとか、時空が歪んでるようなことが表現できたらと思います。普段考えていることを話しているのだけれども、レクチャーパフォーマンスではない面白さ、不思議な魅力があるのではないかなと思っています。
唐津:これまでのお話だとコントの形式だったり、セリフの演劇的な印象が強いのですが、ムーブメントについてもお話を伺いたいと思います。環さんがラップをしている時って、踊りが持っているグルーブ感があって、踊っているようにも見えるし、島地さんの場合も、パフォーマンスで言葉を発することも多いと思います。その中で、普段のラップやダンスというものと比較して、動きと言葉の関わり方に違いがあるとしたら、どんなことか教えていただけますか?
島地:より制約があるって感じですね。セリフを覚えて、どんな動きをしていてもセリフが言えるようにした上で、より制約というか、難しくしたいと思っています。先日リハーサルをした時に、相手を動かしたり、持ち上げながら、セリフを言ってみたら、やはり言いづらいんですよね。わざとそのようなやりにくさを自分に課していくしていくことは、僕の癖でもあるんですけど、自分自身を忙しくしたり、負荷をかけることで、予想外の展開になることをどこかで待ち望んでいたりします。それは、相手対しても自分に対してもそうです。今作で、ダンス的なフィジカルな関わりはなかったのですが、環さんの動きは面白いので、それをもっと見たいなと思い、ここ数日でアイデアを変えました。フィジカルな関わりを取り入れることで、2人の関係の見え方が変化して、よりリアリティが生まれてきているとも思います。
唐津:より動きが増えてきているんですね。
環:身体表現にダイナミックレンジがついて、動的な時と静的な時のコントラストがより深くなって、良くなったのではないかと感じています。
唐津:今回、パフォーマンスとして提示するときに具体的にどのようなところを見てほしいですか?
島地:これ面白いでしょって感じですね。
環:そうですね。全体的に、これは面白いと自信を持って言えます。
島地:僕が面白いと思うのは、照明やちょっとした美術はありますが、ほとんど何もない中で、色々と想像できる余白があるところです。主役が僕たちというよりも、その2人が喋ったり、動いてたりするその空間はどこなんだろうみたいなことを想像しながら見てもらいたいなと感じています。絶対面白いので、見にきてほしいですね。
唐津:本日はありがとうございました。
*『あいのて』は、愛知、東京にて上演します。
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パフォーミングアーツ・セレクション2023
愛知|
9/16(土)14:00/18:30・17(日)14:00
愛知県芸術劇場 小ホール
高崎|
9/21(木)18:30
高崎芸術劇場 スタジオシアター
高槻|
9/30(土)17:00
高槻城公園芸術文化劇場 大スタジオ
東京|
10/21(土)14:00/18:00・22(日)14:00
東京芸術劇場 シアターイースト
ツアー詳細|
https://dancebase.yokohama/main2/event_post/pas2023-tour
*会場によって上演作品が異なりますので、ご確認の上お申込みください。
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