『ダンステレポーテーション』活動レポート#4
小野彩加インタビュー
(聞き手:山﨑広太)
山﨑広太さんの「対話」をコンセプトとしたプロジェクト『ダンステレポーテーション』が進行中です。
山﨑さんと11名のパフォーマーが、新型コロナウイルス流行下での創作活動を、文字通り手探りで行っています。
「基本的に、振付家とダンサーは、場と時間を共有することで作品制作を行っていきます。それが不可能となった現在、振付家は、どのようにしてダンサーとの関係を築き作品を制作することができるのでしょうか。場所も時間も超えたダンスの在り方を探るという意味で、この挑戦にたいして『ダンステレポーテーション』と名付けました。」
(山﨑広太『ダンステレポーテーション』ステイトメントより抜粋)
クリエイションのプロセスは、山﨑さんがビデオ通話で各パフォーマーにインタビューを行うことから始まります。次に、山﨑さんがそのインタビューからインスピレーションを得て紡いだ言葉をパフォーマーに送ります。そして、パフォーマーはその言葉を起点に創作することで山﨑さんに回答します。
今回は小野彩加さんへのインタビューの様子をお届けします。
リラックスした雰囲気のなか、新型コロナウイルス流行下で気付いたことや、空間と身体の関係性などについて言葉が交わされました。
(テキスト・編集:吉田拓)
舞台作家、ダンサー。1991年12月30日生まれ。ダンサー、パフォーマーとして、白神ももこ、黒沢美香、かえるP、三野新、ピチェ・クランチェンなどの作品に参加している。2019年、利賀演劇人コンクール2019 優秀演出家賞二席受賞。
笠井叡に師事。07年にニューヨーク・パフォーマンス・アワード(ベッシー賞)、13年現代芸術財団アワード、16年ニューヨーク芸術財団フェロー、18年グッゲンハイム・フェローの各賞を受賞。20年ニュージーランドのFootnote New Zealand Danceの新作「霧、神経、未来、オーシャン、ハロー(木霊する)」でオンライン・クリエイションに挑んだ後、NZ国内で初演、日本で映像配信を行う(共催: DaBY)。また、北米ツアーを予定。 ボディ・アーツ・ラボラトリー主宰。http://bodyartslabo.com
ベニントン大学専任講師。
- 山﨑
- 小野さんはユニットで活動されていますね。その辺りのお話から伺えますか?
- 小野
- 中澤陽と二人組の舞台作家として「スペースノットブランク」という名前で活動しています。お互いに舞台芸術の多様な可能性に興味があり、作品ごとにコンセプトに適したクリエーションメンバーを集めて制作を行なっています。
- 山﨑
- どのようなきっかけで小野さんはダンスを始められたのですか?
- 小野
- 幼稚園の頃に母に連れられてバレエ教室に通い始めたことがきっかけです。母自身が幼い頃にバレエを習いたかったそうなのですが、それが叶わず、その想いを娘の私に託してくれたそうです。
- 山﨑
- そうでしたか。特に影響を受けた方はいますか?
- 小野
- 高校生の頃に出会ったストリートジャズの先生には、身体で効果的に表現する方法を学びました。その方は非常に力強く踊る方で、私も力強いダンスに憧れがあります。2016年に作品に参加させていただいた黒沢美香さんには舞台での自身の在り方について学びました。BUCKTICKの櫻井敦司さんのステージでの存在感に影響を受けて、髪を伸ばしています。近年は演劇の分野でも活動しており、昨年の利賀演劇人コンクールにて審査をしていただいた平田オリザさんとは作品について少しお話しさせていただいた程度ですが、その後作品なども見て、受け取るものを感じています。
- 山﨑
- 新型コロナウイルスの流行下で、どのようなことを考えていますか?
- 小野
- 表現を発信できる場所がオンラインに限られていますが、オンラインで舞台芸術の記録映像を配信するといった「電波に乗ったコミュニケーション」と、舞台芸術をライブで上演する「直接のコミュニケーション」は大きく異なるように感じています。創作活動を続けていきますが、そのためにどのような手段を選択するのかを考えていきたいと思っています。
- 山﨑
- 僕も同じような気持ちでいますし、こういったプロジェクトをやらせて頂けてありがたいと思っています。生活面で変化はありますか?
- 小野
- 普段していた活動が物理的にできないこともあり、自分の心身と向き合う時間になっています。最近は毎朝ヨガをしているのですが、踊っている時の感覚と通じるところがあり面白いです。私は踊る時、踏みしめた地面の更に下や、手を差し伸べた方向の遥か先にまで感覚を広げ、エネルギーを放出できないかと考えています。ヨガをしている時も、身体の内側へ集中していくと、「今いる場所」→「関東」→「日本」→「アジア」→、というように逆に感覚が広がるように感じます。それが今回発見できたことの一つですね。
また、家族以外と話す時間がほとんどないので、コミュニケーションの大切さを実感しています。意外と私は人と話すことが好きなのかもしれません。
私からも質問していいですか?1月末に行なったリハーサルや、このプロジェクトのミーティングで山﨑さんがお話されていた、オノ・ヨーコさんの『グレープフルーツ』(※1)についてお聞きしたいです。
(※1)『グレープフルーツ』…オノ・ヨーコ著。1964年に限定500部が東京で出版され、1970年には加筆された英語版が世界発売された。「想像しなさい」「書き出しなさい」と読者に行為を促しながら想像を喚起する内容で、ジョン・レノンは本書にインスパイアされ、名曲『イマジン』を制作したと言われている。現在入手しやすいのは、1993年に英語版から再構成され、日本語に訳された『グレープフルーツ・ジュース』(講談社文庫)。 - 山﨑
- 僕は劇場以外の公共空間で行うパフォーマンスに関心があり、『グレープフルーツ』にインスパイアされて、公共空間にないものは何だろう?と想像するようになりました。また、以前NYタイムズでジャーナリストをされていた、クローディア・ラ・ロコさんを東京にお呼びして、ダンスと言葉に関するワークショップをしていただいた事があります。その中で彼女は「自分で自分にタスクを与えて、街の中で実行すること」を参加者に課していて、とても面白い試みだと感じました。日常的な空間において『グレープフルーツ』は想像して言語化することを、クローディアさんは実行することを提案していて、それらが僕の中で引っかかっている状態が続いています。この『ダンステレポーテーション』にも、そうした考えは反映されています。
- 小野
- 私も空間に興味があります。一昨年に香川県の高松で滞在制作を行ったのですが、それ以降、東京で作品を上演したり、豊橋でアーティスト・イン・レジデンスを行う中で、複数の地域や空間で制作や上演をすることにより作品の厚みが増すように感じられました。山﨑さんのおっしゃるように、公共空間で上演すると劇場とは異なる、新たな空気を作品に取り込めるのかもしれませんね。
- 山﨑
- そうですね。また、複数の場所でパフォーマンスすることは、多角的に自分の作品を考えることにも繋がりますね。
他にも幾つかお聞きしたいのですが、創作のなかで時間を紡ぐことについて、どう思われますか? - 小野
- 自分がいなくなっても、それぞれの場所と人々に残していくことを意識して創作しています。私一人では難しいですが、周りの人と協力して目指したいと思っています。
- 山﨑
- 好きな色は何ですか?
- 小野
- 黒が好きで、黒い服を着ることが多いです。でも、子どもの頃から黄色が好きです。
- 山﨑
- 最後に実験させてください。こめかみに指で触れていただいて、触れた感覚から想像する言葉を教えてください。
- 小野
- 複数でもいいですか?(と、手元の紙に書き留める)「ブラックホールの間に」「ねじ、と」「黄色の花束」「ゲリラ豪雨」「目」「パーソナリティ」の六つです。
- 山﨑
- そんなに思いつくのはすごいですね。僕は「カナダグースと水面の間の空間」でした。家の近くに湖があるので、鳥が水面から飛び立つイメージが浮かびました。今日は良いお話が聞けました。後日言葉を綴ってお送りします。ありがとうございました。
- 小野
- ありがとうございました。
小野さんのインタビューはいかがでしたか?
ここからどのような言葉と、それに対するリアクションが生まれるのでしょうか。
次回のお相手は木原萌花さんです。
引き続き、ダンサー同士の対話をお楽しみください。
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