『ダンステレポーテーション』活動レポート#8
久保田舞インタビュー
(聞き手:山﨑広太)
山﨑広太さんの「対話」をコンセプトとした新プロジェクト『ダンステレポーテーション』が進行中です。
山﨑さんと11名のパフォーマーが、新型コロナウイルス流行下での創作活動を、文字通り手探りで行っています。
「基本的に、振付家とダンサーは、場と時間を共有することで作品制作を行っていきます。それが不可能となった現在、振付家は、どのようにしてダンサーとの関係を築き作品を制作することができるのでしょうか。場所も時間も超えたダンスの在り方を探るという意味で、この挑戦にたいして『ダンステレポーテーション』と名付けました。」
(山﨑広太『ダンステレポーテーション』ステートメントより抜粋)
クリエイションのプロセスは、山﨑さんがビデオ通話で各パフォーマーにインタビューを行うことから始まります。次に、山﨑さんがそのインタビューからインスピレーションを得て紡いだ言葉をパフォーマーに送ります。そして、パフォーマーはその言葉を起点に創作することで山﨑さんに回答します。
今回は久保田舞さんへのインタビューの様子をお届けします。
身体観や作品創作について、濃密な対話が繰り広げられました。
(テキスト・編集:吉田拓)
1995年生まれ。埼玉県立芸術総合高校にて舞台芸術を学び大東文化大学入学後モダンダンス部に所属。卒業後は海外アーティストとレジデンスを通じてのコラボレーションや、国内外のダンスフェスティバルに招聘され作品を発表する等活動の幅を広げている。横浜ダンスコレクション2017コンペティションⅡ奨励賞受賞。
笠井叡に師事。07年にニューヨーク・パフォーマンス・アワード(ベッシー賞)、13年現代芸術財団アワード、16年ニューヨーク芸術財団フェロー、18年グッゲンハイム・フェローの各賞を受賞。20年ニュージーランドのFootnote New Zealand Danceの新作「霧、神経、未来、オーシャン、ハロー(木霊する)」でオンライン・クリエイションに挑んだ後、NZ国内で初演、日本で映像配信を行う(共催: DaBY)。また、北米ツアーを予定。 ボディ・アーツ・ラボラトリー主宰。http://bodyartslabo.com
ベニントン大学専任講師。
- 山﨑
- 久保田さんはどのようにダンスをしてこられたのですか?
- 久保田
- クラシックバレエをずっとやっていました。大学でも忙しい時期には休んだりもしつつ、結局卒業まで続ける事ができました。先生としてレッスンで教えたりもしていました。
- 山﨑
- コンテンポラリーダンスに興味を持ったきっかけを教えてください。
- 久保田
- 小学校4年生の時、バレエセミナーを受けた際にコンテンポラリーダンスのクラスがあり、キミホ・ハルバートさんがクラスを担当していて「想像しながら動こう」というような内容でしたが、とても楽しく感じました。私は小柄なので、クラシックバレエの世界では体型にコンプレックスがありましたが、コンテンポラリーダンスではそういった部分が払拭されます。自分の動きで表現できることもあって、ハマったのかなと思います。高校生の時も機会があればコンテンポラリーダンスのワークショップを受けていました。
大学ではモダンダンス部に入ったのですが、当時の先生が熱心な方で、ダンス観が180度変わるような影響を受けました。その先生と出会わなかったら、ダンスを続けていなかったかもしれません。大学でダンスがより一層好きになったように思います。 - 山﨑
- ダンスを続ける理由はどんなところにあると思われますか?
- 久保田
- 私は何かを創り出すためにずっと考えていたいんです。きっかけを無理に作ろうとすると辛くなってしまいますが、その時思い立ったものを体で記録しておきたいという感覚があるので、どうしてもまた創りたくなってしまいます。
- 山﨑
- 僕はコンセプトを定めてから、作品を創り始めることが多いのですが、久保田さんはいかがですか?
- 久保田
- リアルな身体がすごく好きなので、まずはイメージを自分の身体に落とし込んで、即興的に長時間踊ってみたりします。あらかじめ決まったカウントをとり、ユニゾンで動くことなどへの魅力は感じつつも、即興的に生まれた、感情と結びついた動きは見ていても感動します。自分が良いと思った動きや質感から、作品全体のテーマが見えてくる事が多いかもしれません。
- 山﨑
- 僕もダンスを最初に習った笠井叡さんからは即興中心の稽古を受けていました。即興では絶対に同じ体験をしないですし、いつも1〜2時間くらい旅をしている感覚で、どうしてこんなに楽しいんだろう?と感じていました。
即興に際してのイメージというのはムーブメントの方向性ですか?それとも複数の身体のイメージを集めていく感じですか? - 久保田
- その時の環境や感情に影響された複数の身体のイメージを集めていく感じかと思います。入り口は身体の質を感じるところから入ることが多いかもしれません。
- 山﨑
- これまで小さいものも含めて、幾つくらいの作品を創られているのですか?
- 久保田
- 学生時代に創っていたものも含めると、50作品には届かないと思います。
- 山﨑
- それは多すぎないですか!?(笑)そうすると、実験的なことも含めて、いろいろやってこられたんでしょうね。
今年2月に札幌で受賞された作品は、どのように取り組まれたのですか? - 久保田
- (北海道ダンスプロジェクト公演「新たなる挑戦 NEXT ONE 2020」で)鈴木ユキオ賞を頂いた作品では、「自分にとってのダンスという概念」について考えながら取り組みました。結局は自分がイメージを持って表現しているものなら、どんなものでもダンスだと思いますが、創作中はどこまで動かないで成立されられるか、削いでいくことに挑戦しました。最終的には「歩く」を分解し、いかに表現にできるかを考えていきました。初めてドラマトゥルク(※1)の方に協力していただきましたが、私とは全く視点が異なるのですごく助かりました。音、動き、衣装など何もかも新しい刺激を受けました。振付や企画はされますがダンサーとして活動はしない方で、ダンスの固定観念に囚われずに意見を言ってくれて、ダンス表現に対するリミッターがどんどん外れていく感覚があり、すごく面白かったです。
(※1)ドラマトゥルク…(独 Dramaturg)舞台芸術における職能の一つ。決定権を持つディレクター(演出家、芸術監督など)を補佐する役割。創作においては、演出家に助言したり、資料を収集するなどのサポートを行い、劇場やフェスティバルにおいては方針の設定や、地域との連携、芸術教育などを担う。
[参照]市村 作知雄「第5回 アートマネジメントを超えて ドラマトゥルクへの転換(ネットTAM掲載)」(2013).(2020年6月15日閲覧) - 山﨑
- 僕は踊るときに、とてもゆっくり動くなど、身体を非日常的な次元に持っていくリズムがあると思っています。久保田さんにとっては、どのようなリズムが思い浮かびますか?
- 久保田
- 時間の枠を取っ払ってみるということでしょうか。とにかくゆっくり動いてみたり、その場に存在をじっくり現すような。丁度そういったことを考えていた時に、舞踏のエッセンスに触れてみたいと思いました。
- 山﨑
- 僕は大学で舞踏を教えているのですが、その授業ではファッションや建築と組み合わせるようにしています。様々なジャンルと繋げることができるのも、舞踏の利点だと思います。
ところで、久保田さんの世代のダンサーはどのように活動されているのですか? - 久保田
- 私と同年代のダンサーには国内や海外のダンスカンパニーに入っている人もいますし、振付家として自分でどんどん活動したい人はコンペティションに出場して、自分の作品を知ってもらった上で自主公演をしていますね。
- 山﨑
- そうですか。今は年齢的にもいろんなことができるので、時間を大切に頑張っていただきたいと思います。
いまコロナ禍で考えていることを教えていただけますか? - 久保田
- 価値観は変わってくるだろうと思います。現在オンラインでのレッスンや配信が増えてきていますが、もし劇場が再開しても、そういったものを無くす必要はないと思います。オンラインでの活動を新しく根付かせていくことも大切だと思っているので、オンラインの可能性や、臨場感を保ったまま舞台作品を映像で記録するような、新しい方法も探っていきたいと思っています。
- 山﨑
- その通りだと思います。僕はこうして画面を通してお話しているなかで、いかにお互いが異なるかを想像することに可能性を感じています。
このプロジェクトでの言葉を書くにあたって、久保田さんからも言葉を頂きたいと思います。その手立てとして実験したいのですが、パソコンのカメラに向かって手の甲をかざしていただけますか? - 久保田
- こうでしょうか?(と手の甲をかざす)
- 山﨑
- そうすると自分の方からは手の平が見えて、パソコンの画面には手の甲が映りますよね?その両方を眺めながら、手の形を少しずつ変えていってください。そして、そこからインスピレーションを受けて、言葉を手繰っていただけますか?
- 久保田
- (かざした手を変化させながら)「青い光の中に、時計の針。ビニール袋に、水が落ちる。猫の爪。人の足跡。田んぼ道。老夫婦が二人、歩いている。黄色い線が、3本。地面の中に、入っていく。」
- 山﨑
- いいですね!今の言葉をそのまま使っちゃおうかな(笑)
今日はお話ができて楽しかったです。ありがとうございました。言葉を綴ってお送りしますね。 - 久保田
- ありがとうございました。
インタビューはいかがでしたか?
次回のレポートは、ながやこうたさんへのインタビューを予定しています。
引き続き、ダンサー同士の対話をお楽しみください。
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