ポスト・ゴースト
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『ポスト・ゴースト』は、ハラサオリと小暮香帆が歌舞伎の性表現に着目し、現代の越境的な身体を探求する取り組みです。
歌舞伎の源流は、17世紀初頭に京都に現れた出いずものおくに雲阿国という巫女が始めた「かぶき踊り」であると言われています。彼女は当時の「傾かぶき者」という反体制的な風俗を取り入れた挑発的パフォーマンスを繰り広げ、権力や制度からの解放を望む民衆を熱狂させました。しかし、その人気は後に売色の強い「遊女かぶき」に取って代わられ、やがて風紀の乱れを理由に女性の舞台参加が禁止され、この事実は歌舞伎の物語における性表現にも深く影響を与えます。今日の歌舞伎に見られる「女形」(男性役者が女を演じる技術様式)は、阿国の神秘性を受け継ぐとともに、彼女の抵抗と無念を透かして見せる存在でもあるのかもしれません。
奇しくも、歌舞伎の人気演目『四谷怪談』のお岩を始め、「女の幽霊」は女性の願望や感情の媒体として頻繁に現れます。肉体を失い現世の制約から解放されることで、初めて主体的に心を表明できるその姿は矛盾した自由の象徴といえるでしょう。しかし、明治以降に急速な電気の普及が進み、「暗がり」や「謎」が社会から失われるにつれて、こうした物語が新たに描かれることは次第に減っていきました。
現世界を見渡すと、至る所で「自由」の文字が煌々と照らされています。それにもかかわらず、私たちは未だ見えない不安や抑圧から逃れることはできません。強い光が生むのは深い闇です。阿国なら、この陰陽を前にいかに傾かぶいたでしょうか。
2人のダンスアーティスト、小暮とハラは、かつて孤高の女性芸人が手に入れた超越性と、声なき声を発した幽霊の姿に共鳴し、現代の越境的身体を追求します。そして歌舞伎に宿る〈境界、性、信仰、生死、怪奇〉といった多層的な美学を再解釈しながら、強烈な光と影が織りなすこの時代に鋭く傾かたむき、その身を投じます。
ハラサオリ、小暮香帆
構成・演出・振付・出演:小暮香帆、ハラサオリ
ドラマトゥルギー:丹羽青人(Dance Base Yokohama)
音楽:小田朋美
衣裳:藤谷香子
映像:須藤崇規
プロデュース:唐津絵理(愛知県芸術劇場/Dance Base Yokohama)
プロダクションマネージャー:世古口善徳(愛知県芸術劇場)
舞台監督:川上大二郎(スケラボ)
舞台監督助手:小黒亜衣子
照明デザイン:櫛田晃代
音響デザイン:中原楽
字幕翻訳:アレックス・デュドク・ドゥ・ヴィット(Art Translators Collective)
初演: 2024年11月(愛知県芸術劇場)*「間(あいだ)の時間」にて
企画・共同製作: 愛知県芸術劇場、Dance Base Yokohama
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◆PERFORMANCE
・11月 愛知県芸術劇場 小ホール(愛知)「間(あいだ)の時間」*初演
・12月 KAAT 神奈川芸術劇場〈ホール〉(神奈川)YPAM連携プログラム
◆INTERVIEW
紙背 愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama「パフォーミングアーツ・セレクション」|小暮香帆 × ハラサオリ 『ポスト・ゴースト』インタビュー
◆REVIEW
Chacott(香月圭)テクストを用い身体表現の可能性を多角的に探求する、愛知県芸術劇場xDance Base Yokohama パフォーミングアーツ・セレクション2024(PAS2024 神奈川公演)