[Wings]小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク/ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』
©︎Dan Bellman
2025年1月7日〜26日までレジデンスを行っている小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクのお二人に今回取り組む新作、ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』 について伺いました。
昨年度のDance Base Yokohamaでのレジデンスで、独自の動きの生成手法「フィジカル・カタルシス」を異なるアーティストに継承する「継承する身体」を実施していましたが、それがどのように本作に繋がっていますか?
「継承する身体」は、私たちの「メカニズム」である「フィジカル・カタルシス」を如何にして他者へと継承できるのか、同時に他者の「メカニズム」を如何にして私たちが継承できるのか、を探究するプロジェクトです。私たちにとって「ダンス」を「ダンス作品」にするということは、すなわち「振付」という継承可能に思えるようなことと、「身体」という継承不可能に思えるようなものの距離を思考することだと感じています。これまで、どこまでも一過的で個性的であることに固執した「ダンス」と「身体」と “おもしろい” 「振付」こそが私たちの「メカニズム」に付随する表象であると主張し続けてきたことへの反動のように、いまここでまさしく「ダンス作品」を作っています。「作品」としてのかたちを保ち始める「ダンス」が、私たちがいなくなったあとにどのようにして「継承」され得るのか、「ダンス作品」を立ち上げることの実践とその後の取り扱いに強く集中しています。繋がりとしては、この「ダンス作品」に参加いただいているクリエイションメンバーの皆様は、「フィジカル・カタルシス」をすでに「継承」している皆様であり、「継承する身体」というプロジェクトを経て出会った皆様それぞれの解釈から生まれるそれぞれの「マテリアル」が存分に内包された「ダンス作品」になっていると思います。
多様なスタイルの作品を発表されている中で、これまでの作品と比較して本作の特徴を教えてください。
まず明確に「ダンス作品」であると言える作品になると思います。「ダンス」を取り入れた舞台作品でも、パフォーマンス作品でもありません。これまでの『フィジカル・カタルシス』の上演のように、私たちの「メカニズム」の現在地を発表するものでもなく、「ダンス作品」を表象しようという明確なコンセプトを持った「ダンス作品」になります。私たちがこれまでに培ってきた動きと振付を生み出す「メカニズム」である「フィジカル・カタルシス」を用いて「ダンス作品」を作ることを目指した作品となるため、私たちの表現したい身体性や上演に通底する理論は一貫していると思います。「ダンス作品」を名乗るに相応しい振付の総量と技量が現れているように見えれば幸いです。しかし、既存のダンスにおけるそれを思い浮かべすぎてしまうことは、鑑賞体験の妨げになるおそれもあるため、注意が必要です。
なぜ、今回クロード・ドビュッシー『練習曲』を選んだのでしょうか?
私たちが「ダンス作品」を作るにあたり、私たちが気持ち悪く感じないテーマをダンスに与える必要がありました。それが「練習」でした。「練習」という概念は、ダンスに限らず様々な物事に通じる問題として取り上げることができ、クロード・ドビュッシーの『練習曲』は、「練習」のための楽曲として作られていながらも、音楽的にも強い魅力を持っています。その「作品である」状態と「作品でない」状態の両側面が、これまで私たちが「作品でない」状態で「ダンス」を探究してきたことと、これから「作品である」状態で「ダンス作品」を探究していくことに重なると思いました。
現在(第二週目)の創作段階を教えてください。現在のクリエイションはいかがですか?
「フィジカル・カタルシス」を用いて、第一週目から継続してダンサー各々の動きと振付の「マテリアル」を蓄えています。第二週目はそれらを組み合わせたり、フレージングの方法を変化させたりしつつ、音楽と重ね合わせることで振付の「レイヤー」をだんだんと複層的にしていっています。「フィジカル・カタルシス」特有の個別の身体から生まれる個性的な振付と、それを「ダンス作品」にするためのフレージングおよび音楽との融合が、ときたま気持ち悪さを生み出しながらもそれこそが「ダンス作品」に向かう正しい道筋であると理解し始めたところです。
お二人から見る出演者それぞれの魅力について教えてください。
ゴーティエ・アセンシさんは、ダイナミックな表現力を持っていて、4DXの映画を見ているような躍動感を感じます。「フィジカル・カタルシス」はいわば取捨選択や決断からの解放の理論と受け取ることができると思うのですが、それによって生じる他者の動きの流入を心から楽しんでいただいているように思います。宮悠介さんは、「継承する身体」から、昨年上演を行なった『再生』を経て、今回3度目の協働となります。動きの選択肢の幅がとてつもなく広く、目に見える動きの手数に心が躍ります。と同時に独自のフローを持っていることで、観客が鑑賞する際の案内人のような立ち位置としてリードしてくださるのではないかと想像しています。山口静さんは、とても軽やかでありながら強い芯が通った線が太い力を生み出していて、2019年以降幾度となく協働いただいておりますが、動きをフレージングした際に現れる独自のフローのバリエーションには、いつも驚かされます。また、動くこと、踊ることを単なる表象のみで捉えず、ある意味での「自分事」であると捉えることが明確にできてしまうので、その距離感覚は唯一無二の潜在性であると強い信頼を置いています。
インタビュー:2025年1月20日
▶︎オープンリハーサル/ショーイング(ワークインプログレス)+アーティスト・トークの詳細はこちら
オープンリハーサル
2025年
1月13日(月・祝)〜17日(金) 11:00〜16:00
1月20日(月)〜22日(水) 11:00〜16:00
ショーイング(ワークインプログレス)+アーティスト・トーク
2025年
1月25日(土) 13:00〜14:30
1月26日(日) 13:00〜14:30
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小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』
– 世界に羽ばたく次世代クリエイターのためのDance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト “Wings” –
音楽:クロード・ドビュッシー『練習曲』
振付・演出:小野彩加、中澤陽
出演:ゴーティエ・アセンシ、宮悠介、山口静
音響・照明:櫻内憧海
レジデンス助成:笹川日仏財団
主催・共同製作・企画制作:スペースノットブランク、Dance Base Yokohama
助成:文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター等育成・文化施設高付加価値化支援事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会