瀕死の白鳥 その死の真相
酒井はなさんが踊る、『瀕死の白鳥』を解体するソロダンス作品 、というこのプロダクションにおいてぼくがやったのはたった二つのことだけです。 どちらもごく基本的なことです。 ひとつは 作品のコンセプトを決めることです。より具体的には、『瀕死の白鳥』の白鳥は何に因って死ん だのか?それを勝手に決めました。オリジナルの『瀕死の白鳥』においては、死の理由は明示されません。そのことが作品に余韻や広がりを生み出しているとぼくは思います。死因を問題にしないことが、死にゆくさまを踊ることが美となるための大きな前提条件となっていると感じます。 そこでわれわれのバージョンにおいては死因をはっきり決めつける、それによって余韻を台無しにしてしまうことをめざしました。ぼくがこの作品においてやったもうひとつのことは、このパフォーマンスが備える質を何に依拠したものとするかをはっきりさせるということです。といっても特に斬新な方針を打ち出したわけではありません。むしろきわめてシンプルです。酒井はなさんの心身にバレエというダンスの体系が染み込んでいること、『瀕死の白鳥』という作品が叩き込まれていること。そのことになによりも依 拠した作品にするという方針をはっきり定めただけのことです。はなさんにはぼくが書いたテキストをせりふとしてしゃべってもらいます。だらだらした話し言葉のようなテキストです。これをしゃべることによってはなさんの身体は、そのバレ エの身体としての高い到達点から否が応でも引きずりおろされます。そのさまをぼくは見たいと思ってこの作品をつくりました。でもどうしてそんなことがしたいのでしょうか?それは、ダンスを現在のわたしたちの社会の中に文脈づけるということにまつわる何かがもしぼくにできるのだとすれば、 それはそういうやり方によって、つまり、ダンスが高い到達点から引きずりおろされる〈試練〉にぶつかってもがいているさまそのものを提示すること によってではないか......という気がぼくにはなんとなくしているからです。
岡田利規
演出・振付: 岡田利規
出演: 酒井はな
編曲・チェロ: 四家卯大
音楽: サン=サーンス「動物の謝肉祭」から「白鳥」よりアレンジ
プロデュース: 唐津絵理 (愛知県芸術劇場 /Dance Base Yokohama)
プロダクションマネージャー: 世古口善徳 (愛知県芸術劇場)
照明デザイン: 伊藤雅一(RYU)
音響デザイン: 牛川紀政
制作: 宮久保真紀 (Dance New Air)、田中希 (Dance Base Yokohama)
初演: 2021年10月(愛知県芸術劇場) *「ダンスの系譜学」にて
企画制作: Dance Base Yokohama
共同製作: Dance Base Yokohama、愛知県芸術劇場
協力: 株式会社 precog
*本作は、『瀕死の白鳥』と続けて上演します。
瀕死の白鳥
ミハイル・フォーキン原型 酒井はな改訂
出演: 酒井はな
チェロ: 四家卯大
音楽: サン=サーンス「動物の謝肉祭」から「白鳥」
初演:1907年(マリインスキー劇場[サンクトペテルブルク、ロシア])もしくは1905年(貴族会館ホール)
◆PERFORMANCE
2023年 パフォーミングアーツ・セレクション2023
・9月 高槻城公園芸術文化劇場 大スタジオ(大阪)
2022年 パフォーミングアーツ・セレクション2022
・9月 高知県立美術館ホール(高知)
・10月 まつもと市民芸術館 実験劇場(長野)
・10月 いわき芸術文化交流館アリオス 中劇場(福島)
・10月 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場(新潟)
・11月 吉祥寺シアター(東京)
・11月 熊本県立劇場 演劇ホール(熊本)
・12月 山口情報芸術センター スタジオA(山口)
2021年12月 DaBYパフォーミングアーツ・セレクション /KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ(神奈川)
2021年10月 TRIAD DANCE PROJECT「ダンスの系譜学」 /愛知県芸術劇場 小ホール(愛知)*初演
◆REVIEW
渋革まろん (DaBYパフォーミングアーツセレクション2021)
太田充胤 (DaBYパフォーミングアーツセレクション2021)
伊達なつめ (DaBYパフォーミングアーツ・セレクション2021)
國吉和子 (DaBYパフォーミングアーツセレクション2021)
岡見さえ (ダンスの系譜学)