江丹愚馬
地下で暴れて大地震を引き起こす大鯰(おおなまず)を、ある神が石によって押さえ込んで封じた。この伝承は今も日本の各地に存在する。一方で、地震を引き起こしたはずの鯰が復興を手伝ったり、お金をバラまいたりする姿が描かれた絵も多く残っている。まるで厄災を自ら引き起こし、それを英雄の如くおさめるまでが一つの台本になっているかのように。
物事を、人を、国を、「おさめる」とは、一体どういうことであろうか。
救世主や宿敵の出現。それらは人々の関心を集め、不安を発散させ、そして忘れさせていく作用がある。
しかし、それすらも他者によって目くらましのために用意されたものだとしたら。
台本を持った鯰たちがこちらに何かを差し出すとき、
私たちは気付かぬうちに、代わりに失うものがあるように思えて仕方がないのである。
超自然的な危機が迫るとき、戦争の足音が聞こえてくるとき、
世の乱れ果つるとき、必ずやってくるものがあるという。
現世で一番おそろしいもの。これに謎をかけてみよう。
えにぐま えにぐま
朝に四つの昼二つ
夜には三つの本地とは
なんぞやなんぞ なぞやなぞ
人間が神にならんとするとき、その姿はいつも怒れる神か、呪える神なのだという。
幸せな神になることを人間は一度も許されていないのだ。
しかし、人が神や伝説になれる道が、たった一つだけある。
それは進化の袋小路と、ポピュリズムの末路が重なったところに隠されている。
どうやらこの浮世では、その抜け道を見つけたものだけが天上へと向かえるらしい。
おさめる鯰たち。おさめられる私たち。
この国は皮肉を込めたとしても、もはやユートピアとは呼べそうにない。さあ、まつりの用意と、謎を解く準備をして。
ジャパニーズ・ディストピアへようこそ!
演出・振付: 橋本ロマンス
音楽・詞章: やまみちやえ
出演: 安部萌、村井玲美、山田茉琳、
山道太郎(浄瑠璃)、望月庸子(囃子)、藤舎呂近(囃子)、
長谷川莉奈(囃子)、迎田優香(笛)、やまみちやえ(太棹三味線)
記録撮影: ユーリア・スコーゴレワ
衣裳サポート: 里見柚香
プロデュース: 唐津絵理 (愛知県芸術劇場 / Dance Base Yokohama)
プロダクションマネージャー : 世古口善徳 (愛知県芸術劇場)
照明コーディネート: 伊藤雅一 (RYU)
音響デザイン: 牛川紀政
制作: 宮田美也子 (Dance Base Yokohama)
初演: 2021年12月(KAAT 神奈川芸術劇場)*「DaBYパフォーミングアーツ・セレクション」にて
企画制作: Dance Base Yokohama
協力: 公益財団法人 クマ財団
◆PERFORMANCE
2021年12月 DaBYパフォーミングアーツ・セレクション /KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ(神奈川)*初演
◆REVIEW
太田充胤 (DaBYパフォーミングアーツセレクション2021)