talk Dance Vol.6『Dialogue』(小㞍)
2021/4/26(Mon)

photo by momoko japan
2020年4月から始動した「DaBY ProLab Calss」。緊急事態宣言下のため、オンライン・クラスから始まり、スタジオで実際に実施できたのは6月下旬からとなった。新型コロナの影響で踊る場所を失ったプロフェッショナルダンサーのために、2ヶ月間ほど受講無料の支援期間を設け、基本的に週2回のペースで年間を通して行った。日本を拠点に活動するダンサーたちが何を求めているのか、コミュニケーションを取りながら、講師という立場よりも先輩ダンサーとして、トレーニングやリサーチを通して身体性や創造性を培う場を作ることを目指した。ダンスエバンジェリストとして次世代のダンサーたちとの交流は必要不可欠だと感じている。最終的に身体の使い方とイメージに差があることを楽しんで共感してもらえるメンバーが残ってくれた。
今回、クリエーションの中心となった出演者の*DaBYレジデンスダンサー 安心院かな、岡本優香、畠中真濃、DaBY*レペティター 小野麻里子は、この「ProLab Calss」を1年間受講。また植田崇幸と佐藤琢哉は、DaBYでのレジデンスを通して、彼らのパフォーマンスを実際にみる機会に恵まれ、身体クオリティへのこだわりと他者と調和できるマインドがあるダンサーだと感じたので声をかけた。このメンバーで踊るのはこれが初めてとなったが、みな試行錯誤しながらも、とても熱心に自身の課題と向き合い、探求することで変化を実感しながらクリエーションのプロセスを経ることができた。
クリエーションでは「Dialogue / 対話」をコンセプトにおき、実演者と振付家、共演者同士との対話から派生する自身の身体との対話を軸に、ダンスは瞬間に生まれては消えていくものではなく「身体の記録=ある実感の再現」をするものと仮定した。そしてまずは、ダンサーがルーティーンとして繰り返すトレーニングのある日常「ダンススタジオ」という環境をヒントに、それぞれが持つ「記憶」を振付という行為を通して「記録」することを試みた。
日々のトレーニングは、身体におとずれるささやかな感覚の差異を確かめるための行為ではあるが、繰り返される動作に操られ、あるはずの感覚を失う危うさと常に隣り合わせである。メソッドや振付に惑わされず、いかに実感として身体に落とし込むか。
スタジオという空間でも私たちの身体は、日々感覚の記憶をし、時にそれを忘れて、成長をしている。生きていく中で、忘れ、こぼれ落ちていくその感覚を、ダンスという身体表現において「記録」することは可能かという問いのもとに、4つのストーリー、スタジオ内で生まれる人間関係における心情のフラグメント「拮抗/別れ」「絡み/付着」「自/告白」「添う/君の名は」を構想した。そしてクリエーションを行なっていく中で、それらの要素からつくった振付が、ダンサーの身体でどう変化し、実際にどのような心情が起こるようになったのかを自ら分析しながら実演してもらいたいと感じたので、本番の数日前に自身が踊るパートのタイトルを考えてほしいとダンサーたちに提案した。
・『翳りゆく部屋』 岡本優香/植田崇幸
「拮抗/別れ」相手への力の加え方、また受け取り方を変化させることで心情を客観的に表したパートナリングを軸としたデュエットパート
・『no use』 小野麻里子/佐藤琢哉
「絡み/付着」親密な関係なほど相手に委ねることができる、そして偽りながらも関係を続けられる日常の緩みを表したコンタクトを軸としたデュエットパート
・『隣から』 畠中真濃
「自/告白」感じることを全て言葉にする。その小さな感情の告白が自身の想像となり体を動かすことで自身を客観的に見つめようとするタスク・インプロビゼーションを軸としたソロパート
・『You were here』 安心院かな/佐藤琢哉
「添う/君の名は」記憶が蘇るかのように身体が誰かと一緒に動き出す。決まった振り付けのタイミングを偶発的に合わせて踊るソロ×ソロの触れないデュエットパート
そして、オープンから約1年に亘って、ProLabで共にリサーチを続けてきたサウンドアーティストの森永泰弘とのクリエーションプロセスも刺激的で欠かすことができない要素となった。スタジオから派生した私たちの「記憶」を「記録」するということはどういうことなのかを毎日のように話し合い、日常と舞台(現実と非現実)を結びつけるキーとなるサウンドを模索した。その過程は大いに実験的で、ダンサーたちの存在と調和して、時間の経過や交差を感じることができた。
ドビュッシーの「月の光」は、最後まで悩んだ音楽だった。
この曲はは私の個人的な記憶と結びついており、初めてソロパフォーマンスを上演した品川にある原美術館へ、閉館のお別れをしに行ったときに館内に流れていた(佐藤雅晴《東京尾行》のインスタレーション作品の一部)である。はじめはどんな人々の痕跡がこの建物には刻まれているんだろうという思いに耽っていたが、しばらくしたらこの作品のモチーフとなるダンサーたちが持つ人間性を思い浮かべながらピアノのある部屋に座っていた。それはとても静かで良い時間だった。
しかしそのような理由は説明なしにはなかなか伝わりづらいためどう使うべきかを悩んだ。そこで、この曲を使いたい理由を森永くんに相談したところ、彼はとても深い理解を示してくれて、普通にスピーカーから出さないアイデアを提案してくれた。そこで、DaBYのスタジオの構造を活かして、音楽をミニスピーカーから出力し、スタジオの周囲の回廊を移動させることで隣の部屋から聴こえてくるかのような効果をプラスしてみたり、実際の足音を聴かせたり、パフォーマンス中に携帯電話で会話をしてみるなど、今回の上演における音による表現を模索するに至った。
2週間という短い期間であったが、構成や振付から得る身体感覚の実感を通して生まれる心情を自主的に組み立てれたことで、ダンサーの等身大の姿がそれぞれの持ち味の表現として舞台に存在していた。舞台稽古が始まって、照明が入ってからの変化は目を見張るものがあった。集中力がグッと上がり、指一本の動きや小さな音の捉え方でも伝わるほど、何が起こっているのかをしっかりと想像させてくれるまでになり、ダンサーの身体から空気感や感情が、リアルに伝わってきたときにはぞわっときた。
私はこの作品をつくることで、このような時代だからこそ、どこか懐かしいと感じる平穏な時間をみんなと一緒に過ごしたかっただけなのかもしれない。
この作品に関わってくださった全ての皆さま(もちろん見に来てくださった観客の皆さまも!)、とてもいい時間を一緒に過ごしていただきありがとうございました。
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*DaBYレジデンスダンサー:
1年間DaBYで行われる全てのクラスに無料で受講できる資格を持つ選抜ダンサー。
オランダから帰国してから常々ダンサーとしてトレーニングや活動する場所(ベース)が日本になかったので、いつかプロフェッショナルなダンサーが集まれる場所を作りたいと思っていた。ダンスエバンジェリストとなったDaBYでは、舞台やクリエーション経験があるダンサーを選出し、トレーニングを継続している。
*レペティター:
リハーサルディレクターや作品指導として欧州等のダンスカンパニーでは欠かせない役割。円滑にリハーサルが進むようにスケジュール管理から振付家の相談役、そして振付家がいない現場での上演作品のセッティング(作品の関わる振付、照明などの全般を指導/監督)を行う。
『Dialogue』
初演:2021年3月6日 Dance Base Yokohama
振付・演出:小㞍健太
音楽:森永泰弘
照明:上田 剛(RYU)
舞台監督:尾崎聡
衣裳協力:土田ひとみ
リハーサルディレクター・出演:小野麻里子
出演:安心院かな、岡本優香、畠中真濃、植田崇幸、佐藤琢哉
主催:Dance Base Yokohama、小㞍健太
ダンサーがルーティーンとして繰り返すトレーニングについて。
身体におとずれる日々のささやかな感覚の差異を確かめるための行為ではあるが、繰り返される動作に操られ、あるはずの感覚を失う危うさと常に隣り合わせである。
日常を生きるわたしたちの身体は、日々感覚の記憶をし、時にそれを忘れて、成長をしている。生きていく中で、忘れ、こぼれ落ちていくその感覚を、ダンスという身体表現において「記録」することは可能だろうか。
本作は、実演者と振付家との対話から派生した身体の対話も含め、それぞれが持つ個別の「記憶」を振り付けという行為を通して「記録」する試みである。
ダンスは瞬間に生まれては消えていくものではなく、凝縮された時間の中での数多くの対話から生まれる、一つの「記憶」のカタチと考える。
『翳りゆく部屋』 岡本優香/植田崇幸

photo by momoko japan
『no use』 小野麻里子/佐藤琢哉

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『隣から』 畠中真濃

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『You were here』 安心院かな/佐藤琢哉

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