舞台の外で考える|第2回「滞在制作について」|小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク × Dance Base Yokohama
「舞台の外で考える」は、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクがこれまでの活動を軸に、上演の枠を超えた視点から思索を展開する連載である。連載は、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクとDance Base Yokohamaの共同で実施され、各回ごとに両Webサイトを交互に往来しながら進行する。実験的かつ内省的に、舞台芸術に関わる多様な側面を探究し、アーティストと創造環境の新しい関係性を浮き彫りにする。
Dance Base Yokohama
私たちは幸運にも、2023年度と2024年度の2年度連続でDance Base Yokohama(以下、DaBYとする)の「公募レジデンスアーティスト」(現「レジデントアーティスト」)に選出された。2023年度は、私たちが研究開発を継続してきた振付メカニズム「フィジカル・カタルシス」を他アーティストに継承する試み「継承する身体」で。2024年度は、そのメカニズムを用いて、私たちにとって1番目のダンス作品となる『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』を創造する試みでの選出だった。まずは「継承する身体」について振り返る。
継承する身体|訓練されていない素人のための振付コンセプト001/重さと動きについての習作 2024年1月 Dance Base Yokohama
提供:Dance Base Yokohama 撮影:神村結花
継承する身体
「継承する身体」は、約半年間、月1回か2回、DaBYが連続して空いている際は月4回の場合もありながら、断続的に集まって進行する試みであった。まとめると以下の通り。
Dance Base Yokohama 2023年度公募レジデンスアーティスト
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
「継承する身体」第一期
第一次リサーチ 基礎コミュニケーション
2023年7月4日(火)10:00 – 13:00
2023年7月5日(水)10:00 – 13:00
2023年7月6日(木)10:00 – 13:00
2023年7月7日(金)10:00 – 17:00
2023年8月11日(金)10:00 – 17:00
2023年8月12日(土)12:00 – 17:00 / オープンリハーサル:13:00 – 17:00
DaBY総滞在時間数:28時間 / DaBY総滞在日数:6日間
第二次リサーチ 応用クリエーション
2023年9月25日(月)13:00 – 17:00
2023年10月2日(月)10:00 – 17:00
2023年10月24日(火)10:00 – 17:00
2023年11月13日(月)10:00 – 17:00
(2023年12月1日(金)筑波山登山)
2024年1月4日(木)10:00 – 17:00
2024年1月20日(土)10:00 – 17:00 / ワークインプログレス+トークおよび『訓練されていない素人のための振付コンセプト001/重さと動きについての習作』ショーイング:14:00 – 16:00
DaBY総滞在時間数:39時間 / DaBY総滞在日数:6日間
私たちが試みのために選んだメンバーは2人。2019年から「フィジカル・カタルシス」の研究開発に携わっている山口静と、この試みで初めて協働することになった宮悠介である。宮悠介は、私たちが「コンペティションⅠ」に参加したヨコハマダンスコレクション2022の「コンペティションⅡ」に参加しており、そこで最優秀新人賞を受賞していた。授賞式ですれ違っただけだったが、「継承」の過程を共有できる可能性を見出し、唐突な依頼のメールを送った。山口静にはこの試み以前に「フィジカル・カタルシス」を継承済みであるとも考えられるが、ここまで過程を共有してきた上で、宮悠介に対して私たちとは別の客観的な視点で「フィジカル・カタルシス」を形容してもらえるのではないかと期待して依頼した。私たちを含む「継承する身体」の4人の関係は、この後の『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』をはじめ、他の活動でも継続することになる。ショーイングを行なった『訓練されていない素人のための振付コンセプト001/重さと動きについての習作』を上演するための指示書きには「ともに登山をしたりしている必要がある」と書いてあったため、4人で筑波山にも登った。山で絆は深まったのだろうか。それは定量的に測れるものではないが、ともに山を登ることと作品を創造することは似たような性質を持つと実感した。その後、宮悠介と山口静との間で、私たちが定期的に登山をするための「登山部」を作ろうという話も出た。未だそれは実現できていないが、いずれ実現したい。
継承する身体|筑波山登山 2023年12月 筑波山
©︎ 小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
「継承する身体」の「継承する」はダブルミーニングであり、DaBYの公募に応募する時点で、私たちはこの両義の継承を実践したいと思っていた。ひとつは、すでに述べたとおり、宮悠介と山口静とともに断続的にDaBYで過ごし、「フィジカル・カタルシス」を継承すること。もうひとつは、contact Gonzo 物理学シリーズ『訓練されていない素人のための振付コンセプト』を私たちが継承することである。contact Gonzoの塚原悠也さんには、KYOTO EXPERIMENT 2022で『再生数』を上演した際、ポストパフォーマンストークにゲストとして出演していただき、そのトークの最中にこの作品を直接購入したのだった。他アーティストからの継承の実践はこれに留まるものではない。時系列順で、2023年11月にジェローム・ベル『ピチェ・クランチェンと私』を原案とする『松井周と私たち』をこまばアゴラ劇場で上演。2024年1月に『訓練されていない素人のための振付コンセプト001/重さと動きについての習作』のショーイングをDance Base Yokohamaで上演。さらに、2024年12月、「30分の物語を3回繰り返す」構造を持つ多田淳之介原案の『再生』を神奈川県立青少年センター スタジオHIKARIで上演、2025年2月には長崎のアトリエPentAで構成を変えて上演した。2025年3月の現在から俯瞰してみると、時期的には「継承する身体」の「第一期」と重なっているが、これらの試みは「継承する身体」にとっての「第二期」だったと捉えられる。「第一期」ではDaBYに断続的に滞在する4人が「フィジカル・カタルシス」を共有して実践し、「第二期」では他アーティストの実践を体験、体現する。宮悠介と山口静は『訓練されていない素人のための振付コンセプト001/重さと動きについての習作』と『再生』に出演している。現時点でいつ実現できるかは未定だが、「第三期」は、宮悠介と山口静に限定するものではなく、「フィジカル・カタルシス」を用いた、ダンス作品以前のダンスとしての上演を、私たち以外のアーティストに作っていただくというアイデアがある。またそれとは別に、現在企画中の「Project T(ワーキングタイトル)」は、「他アーティストに私たちの実践の一部として創造を委譲する」試みを想定しており、これも「継承する身体」の延長線上にある試みになるのかもしれない。それぞれのプロジェクトに興味のある振付家の方やプロデューサーの方は spacenotblank@gmail.com まで気兼ねなくメールしてほしい。あらゆる提案を打ち出しながら、あらゆる提案を待ってもいる。
ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』
仕組みの「研究開発」「継承」ときて、2025年からはそれを「活用」することを目指す。そのはじまりが、DaBY 2024年度公募レジデンスアーティストとして創造する『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』である。「ダンス作品」のナンバリングのアイデアは、これまでの「フィジカル・カタルシス」の研究開発にも連なっており、私たちにとって「ダンス」を「作品」として「名付けること」の難しさを表している。私たちは今も「ダンス」を「ダンス作品」にすることに何らかの「抵抗」があると思う。しかし、その「抵抗」があるにもかかわらず、私たちが見せたい「ダンス」を、そして「ダンス作品」を「創ってみる」という試みが、次に踏むべき段階であり、世界への態度の表明だと自覚している。公募への応募から選出、そして2025年1月にDaBYで滞在するまでの企画の変遷は、第4回「企画について」で紹介する。ここでは、実際の滞在制作を振り返る。
『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』は、その名の通り、クロード・ドビュッシーの『練習曲』全12曲を振り付けることを目的とした「ダンス作品」である。「練習」と「作品」の間を揺さぶるような態度に、私たちが1番目に創る「ダンス作品」として相応しいテーマ性が感じられ、この楽曲を選択した。ダンスにテーマは必要か。人生論のような胡散臭さはあるが、みる人、創る人、それぞれに考えたい人が考え続ければいいことだ。滞在制作の詳細は以下の通り。
Dance Base Yokohama 2024年度公募レジデンスアーティスト
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』第1部
2025年1月7日(火)11:00 – 16:00
2025年1月8日(水)11:00 – 16:00
2025年1月9日(木)11:00 – 16:00
2025年1月11日(土)11:00 – 16:00
2025年1月13日(月)11:00 – 16:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月14日(火)11:00 – 16:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月15日(水)11:00 – 16:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月16日(木)11:00 – 16:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月17日(金)11:00 – 16:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月20日(月)11:00 – 17:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月21日(火)11:00 – 17:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月22日(水)11:00 – 17:00 / オープンリハーサル:11:00 – 16:00
2025年1月24日(金)11:00 – 17:00
2025年1月25日(土)11:00 – 17:00 / 上演+アーティスト・トーク:14:00 – 16:00
2025年1月26日(日)11:00 – 17:00 / 上演+アーティスト・トーク:14:00 – 16:00
DaBY総滞在時間数:81時間 / DaBY総滞在日数:15日間
2024年度の滞在制作で特徴的なのは、滞在の半分以上を「オープンリハーサル」に充てた点である。2023年度の経験から、DaBYの「フェアクリエイション」宣言にある「観客を含めた第三者が参加するオープンな空間を創出すること」について、私たちアーティスト側から積極的に「開く」ことをアピールしたいと考えた。
ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』第1部|オープンリハーサル 2025年1月 Dance Base Yokohama
提供:Dance Base Yokohama 撮影:神村結花
2023年度はDaBYを初めて使うということもあり、その空間や環境がどのようなものかまだ知らなかった。だが、実際に滞在してみると、DaBYのリハーサル空間以外のエリアはパブリックな書庫として常に開かれており、「オープンリハーサル」と銘打たなくても、セキュリティ上の限度はあるが、人々が自由に訪れられることがわかった。2023年度は1日だけオープンリハーサルを設定し、加えて最後のワークインプログレスを開催したのみ。つまり2日間しか私たちが観客の皆様を招こうとする姿勢を取っていなかった。2024年度の滞在制作では、全15日中8日間をオープンリハーサルに設定し、上演の2日間を含めると、全10日間、観客の皆様をDaBYに招いた。しかも、8日間のオープンリハーサルで誰も来なかったのは1日だけで、それ以外の日は最低でも1人以上の来場があったのだから、アピールした甲斐はあったと思う。来場者にはただ見てもらうだけでなく、自然と生まれる会話の中で、それぞれがどのようにオープンリハーサルの情報を得たのか、なぜ来ようと思ったのか、そして実際に来てみて、見てみてどう思ったかを共有いただくことができた。そこから上演への来場へと繋がることもあり、逆に上演に来られないという理由でオープンリハーサルに来ていただいた方にはその時点での通しを見せることもできた。DaBYという場を通じて、アーティストと観客の双方が満足する関係性で繋がることができる場を創出できたのではないかと思う。オープンリハーサルは今後も積極的に続けていきたい。そして私たちのイベントに限らず、DaBYは開かれている。近くを訪れた際は、ぜひ覗いてみてほしい。
『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』では、誰がどの順番で出てくるのかを半分考えつつ、半分は全く考えずに、「フィジカル・カタルシス」を用いて振付を制作した。2025年1月の滞在制作では、全12曲からなるクロード・ドビュッシー『練習曲』の第1部と呼ばれる前半6曲を振付し、ワークインプログレス上演を実施する計画だった。
ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』第1部|ワークインプログレス 2025年1月 Dance Base Yokohama
提供:Dance Base Yokohama 撮影:神村結花
2025年1月7日(火)から22日(水)までの滞在予定は12日間、つまり2日間で1曲分の振付ができれば、ワークインプログレスに充分間に合う計算で制作を開始した。最初の数日間は、「フィジカル・カタルシス」で振付を行なうだけでなく、「質問」という手法を用いて場面を創ったりもした。細かい説明は省いた大略だけの説明になるが、「質問」とは、「問い」となる言葉をもとに、メンバーそれぞれが「答え」となる「場面」を創造するやり方である。「フィジカル・カタルシス」によって生まれた「ダンス」と、「質問」によって生まれた「場面」のどちらもを層として重ね合わせながら構成し、最終的に『練習曲』の前半6曲分の「ダンス作品」を創ろうという志向で臨んでいた。
▶︎小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク/ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』|滞在制作中のインタビュー
フィジカル・カタルシス
「フィジカル・カタルシス」における「ダンス」の作り方や音楽の扱い方を土台にして生まれた各振付や各場面は、「フィジカル・カタルシス」でこれまでやってきた上演のどれよりも、さらに「踊る本人」の主体的な身体性を発揮することになったように思う。今回であれば「練習」のように、ダンスに「作品」としての意味が混合されることで、その意味に対してそこに表現される「本人性」を帯びた身体、解釈、関係性それぞれの差異が、強調されるように感じたのである。そもそも「フィジカル・カタルシス」で生まれるダンスは、作品化されることを強く拒否するような表層を持っている。今回のような「逆行」を施せば、「みんな違ってみんないい」だった「ダンス」が、「みんな違うけどいいの?」という「ダンス作品」になってしまうのは当然である。しかし、「フィジカル・カタルシス」を「多様性」という言葉を用いて語り、語り続け、「これっていいでしょ」と一方通行に価値の拡大をしていくよりも、自らの手でその逆をやったことは、結果として大成功だった。「ああ、だからダンスをダンス作品にしたくないと思っていたのだ」ということを再発見できた。まだまだ「ダンス作品」を創り続けようと思っている。「フィジカル・カタルシス」は、メカニズムとしての価値を広げながら、もっと多くの人に「多様な身体を表現する方法論」として届いてほしいと思う。同時に、私たちの手で、「ダンス作品」としての既存の価値や意味に抗して、本人たちの身体、解釈、関係性が上演で表現されることもまた「ダンス作品」であると示すためのメカニズムとしても機能していく。
滞在制作のこれまでとこれから
DaBYで行なった2度の滞在制作は、2023年度に断続的滞在制作、2024年度に短期集中的滞在制作と、それぞれ異なる形態での方法をとった。滞在制作が私たちの現在にどのように影響しているかをリフレクションするために、これまでの滞在制作を振り返る。
高松市 / 高松アーティスト・イン・レジデンス2018
目的:新作『原風景』の創造 / 滞在場所:香川県高松市 / 総滞在日数:49日間
穂の国とよはし芸術劇場PLAT / ダンス・レジデンス2019
目的:「フィジカル・カタルシス」のリサーチと創造 / 滞在場所:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 創造活動室B / 総滞在日数:12日間
特定非営利活動法人地域文化計画 / アーティストインレジデンス日高村2022
目的:成果を前提としない地域との関わり合い / 滞在場所:高知県高岡郡日高村 / 総滞在日数:14日間
京都芸術センター / Co-program2023 カテゴリーA 共同制作
目的:松原俊太郎と協働する新作『ダンスダンスレボリューションズ』の創造 / 滞在場所:京都芸術センター フリースペース / 総滞在日数:28日間
城崎国際アートセンター / 2023年度 アーティスト・イン・レジデンス プログラム
目的:新作『言葉とシェイクスピアの鳥』の創造 / 滞在場所:城崎国際アートセンター ホール / 滞在場所:城崎国際アートセンター ホール / 総滞在日数:20日間
YAU / YAU STUDIO Y-base レジデント・アーティスト(2024年2月 – 5月)
目的:恒常的な「訓練」および新作『ダンス作品第2番』のリサーチと創造 / 滞在場所:YAU STUDIO Y-base / 総滞在日数:18日間
ヨコハマダンスコレクション2022 コンペティションⅠ 若手振付家のための在日フランス大使館・ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル賞 の副賞として / パンタン・レジデンス・88デイズ
目的:「ダンス作品」のリサーチ / 滞在場所:フランス国立ダンスセンター(CN D)スタジオ10 / 総滞在日数:88日間
以上が、私たちがこれまでに行なったDaBY以外の滞在制作のすべてである。
パンタン・レジデンス・88デイズ|ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクとの遭遇 2024年6月 ギャルリー・ヴェロ=ドダ
©︎ 小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
活動として「一定期間同じ場所に滞在して制作を行なうこと」は他の企画でもままあるが、「滞在制作」の形態を主軸にしていないものはここでは割愛している。
滞在制作の在り方は場所と期間、そして目的によってかなり違う。しかし、私たちにとっては、新鮮な場所や人々に出会うことはシンプルに「日常生活」から隔離された心地の良さと悪さを兼ね備えた刺激になり、そこに幸福を見出し、制作に対する意欲を爆増させる結果を生む。あくまで私たちの場合は、滞在制作で耐え難いほどの悪いことが起きたことは今のところ無い。ほとんどが充実していて、もっと滞在制作をしたいと思い続けている。DaBYでの滞在制作について、2023年度の断続的滞在制作がゆったりと、たまに集まることができる場所としての活用だったのに対し、2024年度の短期集中的滞在制作は、私たちに「創る」という時間の密度を突きつけた。長期的に断続して集まるのも良く、短期的に集中して集まるのも良く、それぞれの発見があった。『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』の滞在制作は、それ以前のリサーチはあったものの、めまぐるしいスピードで創造作業が繰り広げられ、上演もあっという間に終了し、2ヶ月弱が経過した今、ようやくこうしてレポートで振り返ることができている。場所と時間の密度が、「創る」という意志を否応なく引き出していた。第1部の6曲を創り終えた今、まだ半分残っている。残り6曲をどうするか。そして12曲が完成したとき、第1部の6曲はどのように変化するのか。短期集中的滞在制作の勢いは、どこまで持続するのか。オープンリハーサルでの日々の対話が、私たちに「見る」「見られる」「見せる」「見させる」それぞれの責任を顕にし、レポートで振り返ることで数値化された81時間の総滞在時間は、その重大さをひしひしと伝えてくる。
ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー『練習曲』第1部|ワークインプログレス 2025年1月 Dance Base Yokohama
提供:Dance Base Yokohama 撮影:神村結花
『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』には、宮悠介と山口静に加えて、私たちが2024年に行なった88日間のフランス、パンタンでの滞在制作で出会ったゴーティエ・アセンシが参加していた。いつかこの連載に「運について」や「出会いについて」の回があれば、この遭遇について書きたいと思う。
滞在制作が生むものは、体験、経験、そして作品だけに留まらない。私たちに次の道筋を示し、新しいメカニズムを与えてくれる。第3回「喪失について」では、その道筋の中で捨て置かざるを得なかったものに目を向ける。私たちが「やる」こともあれば「やらない」こともある。そして「やりたくてもやれない」こともある。2024年11月25日(月)をもって全事業を停止したPARAで実施予定だった私たちのクラス「上演デザイン論」の喪失を振り返りながら、次に何を創り出せるのかを探りたい。
2025年3月13日(木)
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク Ayaka Ono Akira Nakazawa Spacenotblank
二人組の舞台作家・小野彩加と中澤陽が舞台芸術作品の創作を行なうコレクティブとして2012年に設立。舞台芸術の既成概念と、独自に研究開発する新しいメカニズムを統合して用いることで、現代における舞台芸術の在り方を探究し、多様な価値創造を試み続けている。固有の環境と関係から生じるコミュニケーションを創造の根源として、クリエーションメンバーとの継続的な協働と、異なるアーティストとのコラボレーションのどちらにも積極的に取り組んでいる。2023年度より、Dance Base Yokohama レジデントアーティストとして、これまでに企画「継承する身体」の滞在制作、『訓練されていない素人のための振付コンセプト001/重さと動きについての習作(原作:contact Gonzo)』のショーイング、『ダンス作品第1番:クロード・ドビュッシー「練習曲」』第1部の滞在制作と上演を Dance Base Yokohama にて実施。世界に羽ばたく次世代クリエイターのための Dance Base Yokohama 国際ダンスプロジェクト “Wings” にて、新作『ダンス作品第3番』を創作、上演予定。